第28話 何なのかな?
文化祭の季節がやってきたけれど、3年生は、受験があるから不参加。
空き教室は文化祭の準備に使われて、1年と2年が遅くまで学校に残っている。
3年が自習に使える教室が少なくなったせいで、放課後の教室にはいつも誰かがいた。
桔平ちゃんは3年の副担だけど、「若い男手」という理由で文化祭の準備に毎日駆り出されていた。
ほんのちょっとの時間ですら話すこともできなくなった。
時々遠くで見かける桔平ちゃんは、いつも誰かと一緒で、忙しそうにしている。
でも、前の仕事みたいに辛そうじゃなくて、よく笑っていた。
桔平ちゃんが幸せそうだから、それでいい。
毎日遅くまで残っているのか、メッセージの既読がつくのも遅くなることが多くて、電話をしても寝ていることが増えた。
桔平ちゃんは「起こしていいよ」って言うけれど、そんなのいいわけない。
だから、電話を我慢した。
メッセージの返事が遅くなることをいつも「ごめんね」って謝られるから、メッセージも送らないようにした。
前よりももっと、桔平ちゃんと筒井先生が一緒にいるのを見かけるようになった。
2人でよく学校に残っている。
駅まで一緒に帰る姿も、何度も何度も見かけた。
千世と大志と3人で帰っている時、大志が2人を見つけて、遠くから叫んだ。
「センセー達ーっ! 仲良すぎませんかぁー!」
千世が笑った。
「行ってひやかしちゃおうよ」
千世にひっぱられて、2人のそばまで駆け寄った。
「センセー達、今からどっか行くんですか?」
「個人情報は生徒には話しません」
筒井先生が冗談めかして答えた。
「文化祭で使いたい電球が近所のホームセンターになかったから、買いに行くだけだよ」
桔平ちゃんが答えてくれた。
「えーっ、あやしい」
千世がちゃかしたら、筒井先生が「ふふっ」と笑った。
「あなた達、受験生なんだから早く帰りなさい。これからは大人の時間です」
筒井先生は、さっきからどうしてそんな誤解されるような言い方ばかりするんだろう。
「向坂くん、行こう」
筒井先生が桔平ちゃんの服の袖を掴んで、先を行こうとした。
桔平ちゃんがさりげなくそれをやめさせた。
2人が駅とは反対方向に歩いて行くのを見ていた。
何を話しているのかも聞こえないのに。
「『向坂くん』だって!」
千世が筒井先生の言い方をマネて言った。
「筒井センセーって、なんで向坂センセーのこと『くん』付けで呼ぶんだろ」
大志が不思議そうに言ったけど、わたしもその答えを知りたい。
桔平ちゃんは、筒井先生のことを『大学の先輩』って言ってたけど、他の先生はみんな『先生』って呼びあっている。
筒井先生にとって、桔平ちゃんだけ特別な感じがして、もやもやってするから、嫌になる。
あと1年早く生まれてたら、桔平ちゃんの隣を並んで歩けたのに。
「花乃? 帰るよ?」
「あ、ごめん」
「何か腹減ったんだけど」
「たこ焼き行く?」
「いいね! 茅野はどうする?」
「ごめん、帰る。眠い」
「最近テレビ見すぎじゃね?」
「かも」
「その割に成績上がってるとか、お前なんなの?」
「何なんだろうね」
今のわたしって、桔平ちゃんにとって何なんだろう?
ちゃんと、彼女なのかな……
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