第26話 距離感

「最近デートしてないね? ケンカでもした?」


部屋で英語の問題を教えてもらっている時、お姉ちゃんが聞いてきた。


「……わたしが受験生だからって」

「そっか。相手の人年上だったね」


今は同じ学校の先生になってしまったから遊べないとは言えない。


「お姉ちゃん、徹人さんが他の女の人と仲良くしてたらどうする?」

「それは……ないんだよね、そういうこと。ほら、徹人って、ガタイいいからほとんどの女の子が怖がって寄って行かない。イケメンでもないしね」

「そっか」

「でも、だいぶ前に、後輩がいきなり徹人に腕組んできたことがあった」

「その時どうしたの?」

「徹人が平謝りしてた。その子に。『ごめんね! やめて! 何でもないことかもしれないけど、冗談かもしれないけど、そういうの苦手なんだ!』って。その後輩苦笑いしてた」

「徹人さんらしい」

「大学入ってわかったんだけど、そんなふうに距離感バグってる人って、いっぱいいるんだよね。気のある素振りしておいて、『そんなつもりじゃなかった』って言ったり。変だよねぇ」

「そういうの、どうしてるの?」

「うーん……放っておく? この人こういう人なんだ、って思うとか?」

「いつかわたしもそんなふうに思うようになるのかなぁ?」

「どうだろうね」



筒井先生は、お姉ちゃんの言うところの距離感バグってる人なのかもしれない。

それで桔平ちゃんは、放っておいてるのかな?

だったら、気にするわたしが間違ってるんだ……



「花乃の彼氏はどんな人?」

「どんな……普通の人! 背が高いわけでもないし、イケメンってわけでもない。太ってもないけど、痩せてもない。でも、優しくて、一緒にいるとあたたかくなる人」

「花乃がそんなこと言うなんて」

「何?」

「初めて徹人を紹介した時、『もっとかっこいい人と付き合えばいいのに!』って言われた」

「あの時は……ごめん」

「いいよ」


お姉ちゃんが笑ったので、つられてわたしも笑った。

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