第25話 ため息の行方
誰もがやる気なく掃除当番をしていた。1年の時なんかは、男子がふざけてなかなか進まなかったりしたけれど、3年にもなると黙々とやっていた。
のろのろと掃除を済ませ、後はゴミ捨てだけになったところで、一緒に掃除をしていた子達が時間を気にし始めた。
「ゴミ捨て行っとくよ」
そう言うと、お礼を言われて、みんなバタバタと帰り始めた。
塾に行っていないのはわたしくらいか……
勉強でわからないことがあったら、お姉ちゃんに聞けばいいから塾には行っていなかった。お姉ちゃんでもわからないところは徹人さんが教えてくれる。家庭教師が2人ついてるみたいなものだから困ったことはなかった。
ひとりで廊下を歩いていると、資料室から桔平ちゃんが顔を出した。
「ゴミ捨て終わりましたか?」
桔平ちゃんの取れかっかっていたシャツのボタンはしっかりと縫われていた。
「さようなら、先生」
「あ、待って。入って」
周りを見回してから、資料室に入った。
「あげます」
桔平ちゃんがわたしの手にチョコレート菓子の包みをのせた。
「どうしたんですか、これ?」
「山川先生の旅行のお土産。もらったから茅野さんにあげます」
「最近、孫におやつをあげる祖父母になっちゃってますよ?」
桔平ちゃんが大きくため息をついた。
「ため息ダメだよ! 幸せが逃げて行く」
「そうなの?」
「知らない。吉にぃがよく言ってるから受け売り」
「花乃が足らない……あと半年……無理かもしれない」
「先生、名前ダメなんじゃなかったの?」
からかうよに言うと、ちょっと不貞腐れたような顔をされた。
「茅野さん、放課後残って勉強とかしませんか?」
「どうしたの? 急に」
「使われていない教室で茅野さんが勉強してたら、見回りに行くのは教師の仕事」
「ふうん。いいよ。仕方ないなぁ」
筒井先生にもやもやしてるのは、胸の奥にしまい込んだ。
それから、わたしたちは、毎日、放課後ほんの少しだけ一緒に過ごした。
誰もいない教室で。
いろんな思いをしまい込んで。
10分もないくらい短い時間だったけれど、顔を見て話をができるだけで幸せだった。
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