第24話 気づいてた
昼休憩になってから、ソーイングセットを千世に借りて、桔平ちゃんを探した。
自販機のところで、桔平ちゃんのシャツの、2つ目のボタンが取れかかっているのに気がついたから。
いつもいる資料室にもいなかったから、職員室を覗いたけれどいなかった。
体育館まで探したけどいなかった。
絶対いるはずがないと思った調理室の前を通り過ぎようとした時、声が聞こえた。
「いえ、それはちょっと……」
桔平ちゃん?
調理室は校舎の端っこにあって、夏は調理の授業がないから、放課後部活で使われるくらいで、生徒も先生も来ない。
そこから声がする。
誰かと一緒?
「ちょっと、近いです。自分でやりますから」
女の人の静かな笑い声。
「やっぱり脱ぎますか?」
「脱ぎません。自分でやります」
「すぐに終わりますから、動かないでくださいね」
筒井先生が、桔平ちゃんの取れかかっていた前ボタンを縫っているのが、開け放たれた窓から見えた。
桔平ちゃんの肩や、胸にふれる筒井先生の爪にはピンクベージュのネイルが塗られている。
長い髪の毛が、時折、椅子に座った桔平ちゃんの膝にかかる。
見られて困るようなことじゃないから、堂々と廊下に面した窓もドアも開けた状態なんだ。
何でもないことなんだ。
だから、気にする方がばかげてる。
窓の下に座って話を聞いていた。
「針と糸とか、いつも持ち歩いているんですか?」
「身だしなみの一つです。普通ですよ」
「女の人って大変ですね」
「はい、できました」
「ありがとうございます」
「こういうの、彼女とか気づいてくれないの?」
「え? あ……」
「ごめんなさい、立ち入ったこと言っちゃいました。忘れてください」
ガタン、と椅子が動く音がして、慌ててその場を走り去った。
千世に借りたソーイングセットをぎゅっと握りしめて。
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