第23話 3次元

1年の時、3年の先輩に片思いをしていた。

恋というより、憧れみたいな感じだったかもしれない。ただ、見ているだけだったから。

授業中、窓際の席から先輩の体育の授業を見たり、休憩時間になったら外階段の踊り場に行って、3年の校舎を見ながら、「先輩出て来ないかなぁ」って思ったり。

先輩は生徒会の役員だったから、文化祭や体育祭になると腕章をつけて、動き回っていたから、偶然すれ違ったりするだけでドキドキした。

一度も、話すことのないまま、先輩は卒業してしまった。



2年になってすぐ、テニス部の男子に告られて少しだけ付き合ったけど、すぐにフラれてしまった。その後彼は、いかにも「守ってあげなきゃ」ってタイプの子と付き合い始めたから、きっと何かが違ったんだと思った。



桔平ちゃんは、今まで会ったことのある男子とは全然違う。

一緒にいるとふわんとする。わたしがわたしでいられる。

こんな気持ちになったのも初めてだった。




自販機の前でポケットから財布を出そうとしていると、後ろから伸びてきた手が先にお金を入れて、ウーロン茶のボタンを押した。


そして、出てきたペットボトルを渡された。


「これで良かったよね?」


桔平ちゃんだった。


「いいの?」

「内緒」

「ありがとう」


続けて桔平ちゃんは、ほうじ茶のボタンを押すと、それを取り出した。

お釣りを取り出していたそのタイミングで、離れたところから生徒が声をかけてきた。


「あー! 向坂先生!」


すぐに文系クラスの生徒が桔平ちゃんを囲んだ。


「ほうじ茶買ってるの、笹ジィくらいしか見たことないよー」

「笹ジィじゃなくて、笹岡先生。ほうじ茶美味しいよ」

「ねぇ、先生って彼女いる?」


桔平ちゃんが何て答えるのか気になって、少し離れて後ろをついて行った。


「彼女いるよ。とってもかわいい人」


こんな質問に、まじめに答えるの桔平ちゃんくらいだよ?


「2次元?」

「えっ?」

「3次元じゃあないよね。だって向坂先生だもん」

「見栄はんなくていいんだよー」


ひどい。

でも、笑ってしまった。


「先生、のんびりしてたらダメだよ。もう授業始まるから、ほら、急いで」

「あ、本当だ」


注意までされてる。


笑いながら、桔平ちゃんとは反対方向の、自分のクラスに向かった。




何でもない毎日が続いて、半年なんてすぐに経って、「あの頃は……」なんて2人で笑い話をする時がきっとやってくる。

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