第21話 知らない

『今日は、歓迎会してもらうことになりました』


桔平ちゃんからきたメッセージを見て、勉強を始めた。

数学の問題を解くのに集中する。他のことを考えなくていいように、難しい問題ばかり挑戦する。


時計を見ると、いつの間にか11時を過ぎていた。


先生になる前だって、飲み会はあった。会社の人とか、仕事のお客さんとか。

なのに、なぜか不安になる。



吉にぃは、まだお店が閉まる時間じゃないから帰って来ない。

隣の部屋から小さな声が聞こえるから、お姉ちゃんは徹人さんと電話をしている。そのまま30分は話しているはず。



さすがにこんな時間から出かけたら怒られるのはわかっているから、スマホだけ持ってそっと家を抜け出した。


自分でも何がしたいのかわからない。

ただちょっと、桔平ちゃんのアパートを見るだけ。見たらすぐに家に帰る。


アパートの近くまで行った時、人の声が聞こえて思わず隠れた。

別に隠れる必要なんてないのに。



月も出ていたし、街灯が明るかったから、見間違えたりしない。



桔平ちゃんが歩いていた。


その隣には筒井先生がいた。


筒井先生は、桔平ちゃんの腕に自分の腕をしっかり絡ませて、並んで歩いていた。



何これ?


わたしが見てるの何?



立っていられなくなって、その場にしゃがみ込んでしまった。

それでも気になって、ずっと、2人の後ろ姿を見ていた。


2人はそのまま、桔平ちゃんの住むアパートの階段を上って、一番奥の部屋のドアを開けて、中に入って行った。




こんなことしない方がいい。

やめた方がいい。


そう思ってるのに、その場からメッセージを送った。


『楽しんでる?』


しばらくして、返信があった。


『明日は休みだから、まだみんなで飲んでるよ』




メッセージなんか送らなければ良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る