第19話 同じことと変わること

美鈴高校では、毎朝、正門のところに先生が立っている。

校則の緩い学校だから、スカートの長さをチェックされるとか、持ち物を注意されるとか、そんなことじゃない。

ただ、先生に挨拶をして、挨拶を返されるだけ。


この高校に入って、何の疑問も持たずに続けていた習慣。


「おはよう」

「おはよう、先生」

「おはよう」

「先生、早速、朝立たされたの? おはよー」

「おはよう」


これまでと変わらない。


「先生、おはようございます」


約束通り「先生」って呼ぶわたし。


「おはよう」


他の子に言うみたいな返事をする桔平ちゃん。



2人の間には、はっきりと線が引いてあって、思っていたよりずっと悲しいよ、桔平ちゃん。



「向坂くん、おはよう」

「筒井先生、おはようございます」

「ふふ。なんだか変な感じ」

「そうですか?」

「頑張ってね」

「言われなくても頑張りますよ」


後ろの方で、桔平ちゃんと英語の筒井先生が話している声が聞こえた。



桔平ちゃん、筒井先生といつの間に仲良くなったの?



「花乃! 何ぼんやりしてんの?」

「千世、おはよう」

「ねぇ、正門のとこ見た? なんか、向坂先生と筒井先生が急接近」

「そう?」

「向坂先生って、見るからに、いい人〜って感じだよね。世界史じゃあ理系クラスの私たちには関係ないけど。副担って、めったに教室に来るわけじゃないし」

「そうだね」



同じ学校にいるからって、桔平ちゃんの授業があるわけでもなくて、放課後も会えるわけじゃなくて、今までみたいに部屋に行くこともダメ。


こんなのが7ヶ月も続くんだ……


ずっと会いたい時に会えてたのに。



「おい! 茅野?」

「何っ?」


いきなり大志に声をかけられて驚いた。


「いや、ぼーっと突っ立ってるから」

「そーなのよ。花乃、朝からずっとぼんやりしてんの」

「寝不足かな。昨日遅くまでテレビ見てた」

「受験生なのに、さすがヨユーだな。微分のわかんないとこあって聞きたいんだけど」

「大志、数学得意なのに?」

「微分は苦手なんだよ」




朝の先生との挨拶の習慣も、友達との会話も、何もかも同じで、今までと変わらない。


でも、何かが変わっていった。


音もなく、静かに、ひっそりと。

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