第17話 遅刻

家に帰ってから、今日のことがいろいろいろいろ思い出されて……


桔平ちゃんと、そういうこと……


あんまり急だったから断っちゃったけど、付き合ってるんだからいつかは……だよね。


明日また会う約束したんだった。


一応、かわいい下着とかの方がいいかな……


今日はダメで明日はいいとか軽いって思われる?




なんて……

ぐるぐる考えてたら眠れなくなって……





朝、目を覚ますと、いつも以上に明るかった。

時計を見ると、8時を過ぎていた。

無意識にに目覚ましを止めてたんだ!。


やばい!


思いっきり遅刻!


始業式の日に遅刻とかありえない!


1階に下りると、お姉ちゃんは既に出かけた後で、朝ごはんがテーブルの上にラップをかけて置いてあった。

食べる時間がなかったので、そのまま冷蔵庫に入れて、急いで家を出た。





正門に先生の姿はなかったけれど、正門を入ってすぐの所には守衛室がある。守衛さんに見つかると職員室に連絡が入ってしまうので、見つからないように前を通りすぎないといけない。

遠くから様子を見ていると、ラッキーなことに守衛さんが下を向いて何かを書き始めた。

それで、すごい勢いで前を走り抜けた。



廊下にも、もう誰もいなかった。

教室を覗くと、担任の山川先生がもう来ていた。その隣には誰かが一緒に立っている。


副担の磯辺先生が夏休み前に体調を崩して、予定より早く産休に入ったから、きっと新しい副担だ。


始業式に出れなかったから、どんな人が副担になったのかわからない。


後ろのドアはいつも開けっ放しだったから、そっと教室に入って、自分の席にこっそり座るはずだった。

教室内はざわついていたし、山川先生はおっとりしていているから、きっと気がつかない。

一番後ろの席に座っていた穂村大志が、わたしに気がついたけれど、ちらっと見ただけだった。


もう少しで席に着けると思った時、聞き覚えのある声が教卓の方から聞こえてきた。



「このクラスの副担任となりました、向坂桔平です。教科は世界史を担当し……」



「えーっ!」



思わず、立ち上がってしまった。



真っ直ぐにわたしを見据える桔平ちゃんの目。



「茅野さん、遅刻ですね。後で職員室に来てください」

「はい……」

「取り敢えず席について。向坂先生がまだ話されていますから」


もう隠れても仕方がないから、窓際の、一番後ろの自分の席に普通に歩いて行って座った。



山川先生の言葉なんて耳に入らない。


わたしの方を見ないで話す桔平ちゃんの声。


どうして桔平ちゃんがここにいるのかわからない。


桔平ちゃんは、普通のサラリーマンだったはずなのに。




わたしの知っている桔平ちゃんは、わたしの知らない先生になってしまった。

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