第14話 その引き金

向坂さんは、ふとした時にため息をつく。

わたしが見ているのに気が付くと、微笑んでくれるけど。


最初、わたしといてもつまんないのかな? って考えた時もあった。

でも、何回か会っているうちにわかった。日曜日の夜になるとため息が増える。



「向坂さん、最初、お仕事の話してくれたけど、あれからしてくれなくなりましたよね?」

「面白くない話だから」

「聞きたい」

「ただの営業だよ? 毎日得意先に行って、新しい什器の説明したり、商談に行ったり」

「そうじゃない」

「え?」

「やりたい仕事じゃないんですよね?」

「……誰もが、やりたい仕事に就けるわけじゃないから」

「でも、向坂さんは納得してないんでしょ?」

「……ずっと、夢があったんだ。でもそれが叶わなくて」

「あきらめたんですか?」

「望んであきらめたわけじゃないよ」

「じゃあ、もう一度がんばってください」

「そんなに現実は甘くないから」

「そう決めつけてるのは向坂さんじゃないですか!」


向坂さんは黙ってしまって、じっとわたしの顔を見続けた。


「これからもっともっと長く生きていくのに、ずっと後悔し続けるんですか?」

「……敵わないなぁ、花乃ちゃんには」

「そう思うんだったら、あきらめないでください」

「うん。そうだね。花乃ちゃんにはいつも元気をもらってる気がする」

「さては向坂さん、わたしのことが好きですね!」

「花乃ちゃんが思ってるより、もっと、ずっと好きだよ」


計算してるのか、素直なのか、向坂さんはこういうことを簡単に言う。


「今より忙しくなって、あまり会えなくなるかもしれないよ?」

「わたしも暇じゃないんで、問題ありません」

「そっか」

「わたし、信じてるよ! 向坂さんなら絶対叶えられる! あきらめたらダメ!」

「ありがとう」




夢をあきらめちゃだめって、言ったのはわたし。



だから、引き金を引いたのは、わたし自身。

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