第13話 終わりへのカウントダウン
あの日のことは忘れない。
今まで生きてて、一番幸せだった日だったから。
お風呂から出て、冷蔵庫の麦茶を飲んでいると、お姉ちゃんが2階から下りてきた。
「花乃のスマホ、ずっと鳴ってたよ」
「あ、嘘っ」
急いで2階に上がってスマホを見ると、向坂さんから着信が残っていた。
すぐにかけ直すと、どこかざわざわとしたところにいるみたいな音が後ろでしていた。
「電話出れなくてごめんなさい」
「花乃ちゃん、今日、花火大会だった!」
そういえば、港の方で花火大会があるって、吉にぃが言っていた。
「そうみたいですね」
「少しだけ出て来れる?」
「今から?」
「あ、ごめん、急だし遅いから無理だよね。忘れて」
「行きます!」
急いだから、髪の毛もただアップにしただけで、服はただのサマーニットにジーンズで、走るために靴なんてスニーカーだった。
でも、向坂さんは気にしないって思った。
それよりも、少しでも早く待ち合わせの場所に行きたかった。
指定された場所に着くと、向坂さんが待っていて、目の前のビルにわたしを連れて入った。
エレベーターで一番上まで上がって、そこから階段でまた上って、ビルの屋上に出るドアの鍵を向坂さんが開けた。
「こっち」
向坂さんの後について、貯水タンクの向こう側に行くと、ビルとビルの間から、大きな花火が見えた。
「このビル、お客さんのなんだけど、前に花火が見えるって教えてもらったの思い出して鍵を借してもらった。花乃ちゃんと見たくて」
でも、すぐに花火は終わってしまった。
「もっと早く気がつけば良かった」
「でも、こんな誰もいないところで花火見たの初めてだったから、嬉しかったですよ」
「やっぱり、花乃ちゃんはかわいい」
今日は、髪の毛だって微妙だし、ほとんどスッピンで、服だって適当なのに。靴なんていつも履いてるスニーカーだよ?
一番幸せだった日。
でも、この日から、終わりへのカウントダウンは始まっていたのかもしれない。
「来年は、ちゃんと約束して見に行こう」
「いいですよ」
「あーっと、そういうんじゃなくて……」
向坂さんはあっちを見たりこっちを見たりしていたけれど、やがて真面目な顔をして言った。
「茅野花乃さん、僕と付き合ってください」
その言葉が、あまりにも嬉しくて、涙腺が崩壊しそうになって、両手で目頭を押さえたけれど、間に合わなかった。
返事、早くしないと。
そう思うのに、ぼろぼろと涙がこぼれてきて収取がつかなくなってきた。
「花乃ちゃん?」
「はい。よろしくお願いします!」
あの時は、そう言うのが精一杯だった。
あのね、わたし、ずっとずっと前から、あなたのことが好きだったんだよ。
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