第8話 楽しいから
お姉ちゃんが、髪の毛を巻いてくれた。
それで、この間まで見ていたドラマの主人公みたいな髪型になった。
ワンピに合う靴もバックも貸してくれて、メイクもしてくれた。
いつも学校にしていってるみたいなのとは全然違う。
いつもより大人っぽく見える自分を、何度も鏡で見ていたら、お姉ちゃんに笑われた。
約束の11時より30分も前に駅に着いてしまい、時間を潰すために駅の中のお土産屋さんに入った。
入り口から順番に陳列してあるお土産を見ていたら、隣にいる人から話しかけられた。
「もしかして……」
「あ……」
向坂さんだった。
2人して早く来すぎて時間を潰していたとわかって、顔を見合わせて笑ってしまった。
「何か食べたい物ある?」
「オムライス!」
「オムライス?」
「もしかして、どこか行くところを決めてました?」
「何軒か考えてたけど、オムライスは選択肢になかった」
「じゃあ、違うところを……」
「オムライスに行こうよ。今日は花乃ちゃんへのお礼に誘ったんだから。でも、いいお店を知らない。どこかある?」
「はい! あります!」
家族でよく行ってた洋食屋さん。
お父さんとお母さんが海外に行ってからは一度も行っていなかったそのお店に、向坂さんを案内した。
少し入り組んだ場所にある、隠れ家的なお店。
お店に入ると、向坂さんはめずらしそうにキョロキョロしていた。
「3月に今のところへ引っ越して来たから、この辺りは不案内なんだ」
「わたしは6月からこっちに住んでるんです。前はここより3つ先の駅の方に住んでました」
「だったら引っ越して来た者同士だ。同じことあると嬉しいね。今日のお土産屋とか」
女の子を口説こうとか、そういうんじゃなくて、本気で言ってるのが伝わってくる。
この人、天然なのかな?
わたしと同じオムライスを頼んで、美味しそうに食べてるのを見ていると、何だかぽわんとした気持ちになる。
「花乃ちゃん、じっと見られてると食べにくい」
「美味しそうに食べるなぁ、って思ったらつい」
「本当に美味しいよ。吉の料理も美味しいけど、このオムライスも美味しい」
「吉の料理、味わかってたんですか?」
じっと見返された。
「ごめんなさい。いつもとっても酔ってるみたいだったから、味とかわかんないかと思ってました」
やばっ……今の言い方、感じ悪かったかも……
「そうだね。作った人に失礼だよね。自分でも飲み過ぎはよくないってわかってるんだけど、1人でご飯食べてるとね」
「1人がダメなんだったら、わたしが一緒にご飯食べますよ!」
強引? 引いた?
「ありがとう。誘ってもいい?」
「はい、ぜひ!」
わかってしまった。
どうして思ってることを簡単に言えちゃうのか。
相手が向坂さんだからなんだ。
向坂さんが、駆け引きとかしないから、わたしも正直でいられるんだ。
今時の高校生だって、相手の反応見ていろいろ画策するのに、向坂さん、なんかズレてる?
「何かおかしい?」
「全然! おかしくないです」
「だったら何でそんなに笑ってるの?」
「わたし笑ってますか?」
「笑ってる」
「だったらそれは、楽しいからです」
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