第6話 終わりは嫌
お姉ちゃんの通う中共大学には何度か遊びに来たことがある。
だから迷わず来ることができた。
正門を入って、文学部の校舎に向かう途中、お姉ちゃんから電話がかかって来た。
「花乃、今どこ?」
「文学部の校舎に向かってるとこ」
「図書館わかる?」
「わかるよ」
「図書館の前で待ち合わせでいい?」
「いいよ」
図書館の前でお姉ちゃんを待っていると、お姉ちゃんと彼氏の深川徹人さんが一緒にやって来た。
「花乃〜、ごめんね」
「わたしが夏休みじゃなかったらどうするつもりだったの?」
「困ってた〜」
「おはよう、花乃ちゃん。大変だったね」
「徹人さん。朝から仲良いいですねぇ」
徹人さんは、お姉ちゃんと付き合って1年は経つのに、ずっと仲が良くて、羨ましい。同じ大学ということもあってか、いつも一緒にいる。
ぎゅっと茶封筒を抱え込むお姉ちゃんを、哲人さんが優しい顔で見ている。
「ほんっとに、ありがとう!」
「貸しだからね」
「わかってる」
「冬華と違って、花乃ちゃんはしっかりしてて助かったよね。気が付いてすぐに持って来てくれてなかったら、提出の締め切りに間に合わなかったよ」
「徹人ひどい。本当のことだけど」
「お姉ちゃん、時間ないんでしょ? 早く行って。徹人さんも」
「本当にありがとう!」
「またね、花乃ちゃん」
「ばいばい」
お姉ちゃんと徹人さんの姿が見えなくなって、帰ろうとした時、後ろにいた人にぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
「僕の方こそよそ見をしていたから」
ぶつかった人の顔を見た――
「花乃ちゃん?」
「向坂さん!」
「すごい偶然」
「どうしてここにいるんですか?」
「仕事で。什器の搬入に来てたんだ」
夏休みだから曜日の感覚がおかしくなってたけど、よく考えたら普通に平日だった。社会人は働いてる時間。
「ここんとこ忙しくて、お店に飲みに行く時間もなかったんだ。家に帰ったらすぐ寝てた」
「そうなんですね」
向坂さんと話していると、前から歩いてきた、お姉ちゃんの友達に声をかけられた。
「あれ? 花乃ちゃん? 冬華と一緒?」
「さっき別れたとこです」
お姉ちゃんの友達は、向坂さんをチラリと見ると
「ナンパには気をつけるんだよ」
そう言って行ってしまった。
「一緒に行かなくていいいの?」
「わたしはもう帰るところだから」
「そっか。僕はまだ仕事があるから。じゃあね」
向坂さんが行ってしまう……
気がついたら、スーツの裾を掴んでいた。
「えっ? 何?」
「あ、えーっと……」
向坂さんが、わたしが何か言うのを待っている。
「あの……」
このまま、何も言わなかったらここで終わってしまう。それは嫌。
「れ、連絡先交換してください!」
返事は?
向坂さんは何も言わない。
何この間……
怖くて下を向いてしまった。
「交換しよっか」
その声に上を向くと、向坂さんが照れた顔で、手にスマホを持ってわたしを見ていた。
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