第零話
第零話
——数百年前 日記
昔、ピーターパンとかいう童話を聞かされたことがある。
本は読んだことがないけど、母がよく聞かせてくれた。
でも不思議なことに、母の聞かせてくれたピーターパンはいつもエンドが違った。
それでもそのエンドは全てハッピーエンドだったんだ。
身体が成長するにつれてすっかり忘れていた記憶を思い出したのはいつぶりだろうか。
たった今帰ってきた私は忘れないように出来事を記す。
私が私で無くなる前に。
。
あるいつもと変わりない夜。
私は絵を描いていた。
今日は空の絵。
もう時期大人になる。あと一月もすれば大人と呼ばれる年齢。
婚約者は私の意見など聞かず決まった。
来月式をあげるという。
一度婚約者に会ったことがある。
背の高い、私よりもいくつか年上の青年。
彼はもう大人だ。
別に嫌な訳では無い。
家事をするのは嫌いじゃないし、おまけに家事さえすれば絵を描かせてくれるという。
でも少し心残りがある。
まだ私は恋をしたことがなかった。
もし恋をしたら。
そんなことを考え筆を止めたが結局何も想像がつかなくて諦めた。
重くなった空気を入れ替えようと窓を開けたその時、私と彼との出会いで、全てを変える出来事が始まった。
窓を開けると夜空の向こうから黒い何かが物凄い勢いで飛んできた。
「きゃぁ!」
思わず目を瞑る。
最初はコウモリか何かの鳥かと思った。
恐る恐る振り返ろうとした次の瞬間、今度は窓から人が飛び込んできた。
「!?」
今度は驚いて声も出なかった。
「よし!やっと捕まえた!」
三階の窓から私の部屋に入りこんできたその人は先に部屋に入ってきた黒い何かを捕まえそう言った。
夢ではないかと目を擦り観察する。
まるで御伽噺の中から来たような、緑の服を着た私と同じか、いくつか年下にも見える金髪の少年。
羽の付いた緑の帽子を被っていた。
その時思い出した。
昔、母が聞かせてくれた童話、ピーターパン。
空から飛んでやってくるとか何とか。
「あ!ごめん、僕の影がさぁ……って、聞いてる??」
何が起きたか理解が追いつかず立ち尽くす私に気づいた少年はこちらを見てそう言う。
「えっと……ピーター……パン?」
「え?誰だよそれ?知らないなぁ……」
私が言うと少年はうーんと腕を組んで考え事でもするかのように言った。
私は突然ピーターパンのような姿で同じように飛んでやってきて、ピーターパンと聞かれ誰だよそれと考え込む姿が何故かおかしくて、驚きなんな忘れてくすっと笑った。
すると、少年はむっと、何が面白いんだよ!とこちらに向かって言った。
今度はその姿が可愛らしくてまたくすっと笑ってしまった。
兄弟の居ない私は、弟が出来たらこんな感じなんだろうかと思った。
ここまでの記憶がはっきりあるから現実なことは間違いないと思う。妄想主義な私にとっては簡単に受け入れられる話だった。
「ごめんなさい。おかしくってつい。」
「もう、これだから大人は。何考えてるか分からない!」
「大人?私はまだ大人じゃないのよ。あなたと同じく子供よ?」
「え!?そうなの?」
「えぇ。そうよ?」
そうして少年はやったぁ!と私の顔を覗き込んだ後にそう言った。
「ねえ、君の名前は?」
自分の名も名乗らずに何故か私に興味津々な少年が問う。
「私の名前?私の名前はウェンディよ」
この時、つい遊び心でピーターパンの童話に出てくる女の子と同じ名前を名乗ってしまった。自分の名前では無い名前を。
「ウェンディ!素敵な名前だ!」
「それより、あなたの名前は?さっき捕まえてたのはなに?」
そういえばと思い出し少年に聞く。
「僕?僕はね、ステラ。その、ピーター……なんとか?じゃないよ!捕まえてたのは僕の影さ。時折逃げるんだよね。」
ピーターパン……ではなかったらしい。
でも逃げた影を捕まえるというのは御伽噺で聞いたことのある話だ。
「影が、逃げるの?」
「普段は大人しいんだ。影が時々逃げるのは普通だろう?」
当たり前だろと少年……ステラが言った。
「いいえ?普通じゃないよ。」
「そうなの!?君と僕ではまるで住む世界が違うようだね。」
「あなたはどこから来たの?」
驚く素振りを見せるステラに質問する。
「僕は空から来たんだ。」
「空から?」
「そうさ、空から。空って知らない?ほら、そこにある絵。君が描いたんだろう?素敵な絵だね。」
「ありがとう。空は知ってるよ。ただ、空から来たなんてそんな馬鹿げた話が本当にあるのかしら?」
「何を言っているんだ。空は飛ぶものじゃないか。」
また、当たり前だろとステラがこちらを見る。
「本当にあなたと私とでは住んでいる世界が違うのね。私の住んでいるこの世界では空を飛んだりしないわ。」
「ふぅん。変な世界だね。」
「そこは気を使ってそんな事言わないわよ?気を使えないと大人になった時に困るわ。」
「大人になんかならないさ。」
こちらの目も見ずにステラが吐き捨てる。
「そうだ、君は僕と同じ子供なんだろう?だつたら僕と友達ってやつになってよ。」
先程の話がなかったかのように顔を明るくするステラ。
「いいよ。友達になろう。」
「やったぁ!」
「でも、私あと
子供だからという理由で言われたものだから、念の為にと聞いてみた。
「それなら空へ行こう。僕の住む世界へ。そこではきっと大人になんてならないはずだ。」
「そうね。それならあなたと空に行こうかな。」
大人にならないことなんて無いなんてことは言わなかった。
きっと頑固そうなステラには言って聞かせても意味が無いだろうし、夢を壊してしまうのも今でなくてもいいだろうと思った。
「じゃあ早速行こうよ。」
そう言ってステラが私の手を掴み窓枠へ軽々と乗り上げる。
「でも私、あなたみたいに飛べないのよ?」
妖精でも出てくるのかしらと思いながらステラに問う。
「大丈夫。だって僕が連れていくし、何より君は子供なんだから。」
童話ではここで妖精が出てきて飛べるようになる。
でもステラはそう言って私の手を引いた。
その勢いで私も恐る恐る窓枠へ乗る。
「ごめんなさい、私やっぱり飛べないわ。」
少年の遊びに付き合うにしてもやはりここまでだ。
流石に空を飛べるわけが無いしこれでは落ちて死んでしまう。
しかし、私が窓枠から自分の部屋の方へ降りようとした時、少年が私の手を引き外へ落ちた。
それにつられ私も。
三階の窓から。
「きゃっ!?」
飛んでいない。落ちている。
死んでしまう。
私は思いっきり目を瞑った。
「大丈夫。死なないから、思いきって目を開けてご覧?」
突然ステラがそう言い落ちながら私の手を引きスっと抱き寄せた。
飛ぶ、イメージ。
飛ぶイメージ。
フワッと体が軽くなった気がした。
ステラにしがみついたまま恐る恐る目を開ける。
私の家がどんどん小さくなっていく。
ああ、私今、空を、
「飛ん……でる?」
「だから行ったろ?空は飛ぶものだって」
ステラはそう言いゆっくり私から離れていく。
落ちたらと思うと恐ろしいので、手は握ったまま二人で空を、飛んでいる。
それからはあっという間だった。
「ここが僕の住んでいる世界だよ。空で君の世界と繋がっているのさ。」
しばらくして美しい自然豊かな地球のような場所に降り、ステラが告げた。
そのままステラが家まで案内すると言うので私はそれについて行った。
「あら、ステラが来たわ!」
「ステラ、相変わらず素敵ね。」
道中、可愛らしい人形達がステラを見て一斉にステラステラと騒いでいた。そして私は一斉に睨まれた。
「今は彼がいるから何もしないけど、今度あったらただじゃ置かないから。」
ステラに聞こえないよう私にそう吐き捨て人形達は海の方へ去っていった。
家に着く前にステラは、鍵のかかった部屋があるけどそこには絶対に何があっても入ってはならないと言った。
私は何も疑わずに素直に分かったと頷いた。
その後も相棒と、一人のちいさなこれまた可愛らしい妖精、サイスを紹介してくれたり、兄弟と十人の子供たちを紹介してくれたり。
サイスからはあまり歓迎されていないようで、私を睨み直ぐにどこかへ行ってしまった。
「嫉妬しちゃったのかなぁ。悪いね、普段はいい子なんだ。どうか嫌わないであげて。」
「大丈夫よ。嫌ったりしないわ。」
はは、とステラにそう言われた。
ステラの十人の兄弟と呼ばれた子供たちは小さな子供から私と同じくらいの子まで、個性豊かな子達だった。
その子供たちは私のことを歓迎して釣ってきた魚や木の実などでご馳走を用意してくれた。
親が心配するだろうから一晩だけ泊まると言ったら、ステラは私の部屋にしばらく友達の家に泊まりに行くと書き置きを残したから大丈夫というので一月だけここに居ることにした。
非日常を少し、味わいたかったのだ。
その後も森をみんなで探検したり、魚を釣りに行ったりして沢山遊んだ。
大人になる前、こんなギリギリで子供を満喫できる事が嬉しくてたまらなかった。
それから二十九日ほどたったある日のこと、夜に扉をノックしフードで顔を覆った男が訪問してきた。
決して怪しいものでは無いと。
ステラ達兄弟の中で一番の年長、もうすぐ十八になるルイを養子として譲ってくれないかと。
ルイはその話に目を輝かせたもののみんなと離れ離れにはなりたくないと拒否し部屋にひきこもってしまった。
その後ステラが諦めずにルイを連れていこうとする男を今はルイが嫌がっているからまた今度と追い出し、男が諦めて帰っていくのを見送ったあと、明かりを消しみんな寝静まった。
次の日起きるとルイはおらず、ステラに聞くと、
「ああ、ルイなら今朝、気持ちが変わったって昨夜訪ねてきた男の養子に引き取られて行ったよ。きっとその方が幸せなのさ。」
聞けば彼ら兄弟は親に捨てられた迷い子達の集まりだったらしい。
見知らぬ男の人について行って大丈夫なのかと聞くと、ステラは実は知り合いであいつは良い奴なのさと告げたので私も安心した。
ほかの子供たちにもそのことを告げると、今日ルイが誕生日だからお祝いしようと思ったのにと嘆いたが、よくある事らしく、養子として引き取ってもらった彼を祝福したり羨んだりと喜んでいた。
そしてやはり寂しいと悲しんでもいた。
思えばこの時私は確認すべきだったのかもしれない。
そして私も、あと二日で大人になる十八の誕生日を迎え、婚約するものだから寂しくなるけど帰ることをみんなに伝えた。
九人の子供たちは泣きながらも、また来てねと言ってくれたので、私は一年に一回くらいは会いに来るねと伝えた。
妖精のサイスは物陰からこちらを見ていたから、私はまたねと手を振ったけどぷいと自分の部屋に戻って言ってしまった。
そしてまた会おうね、と子供たちと別れ、ステラと家を出て歩き出した。
しばらく歩くと突然、ずっと黙っていたステラ突然立ち止まり、
「帰ったら大人になってしまうよ?帰らないでよ。」
と私の腕を掴んだ。
「でも帰らないと。私を待っている人がいるわ。それに、体が大人になってもきっとここに来てあなた達と会えば子供になれるわ。」
「そんなの嘘だ!そう言ってきっと大人になったら僕達のことなんか忘れて子供の心なんて捨ててしまうんだ。」
「そんな事ない。私はずっと子供の心をもってあなた達を忘れない。それに、私は絵描きだもの。想像力は豊かなのよ?」
叫ぶステラを今度は私がよしよしと抱き寄せそう言う。
「本当?」
少し落ち着いたステラが聞く。
「本当だよ。約束。」
ほら、と私たちは指切りげんまん、約束を交わした。
「なら、安心だ。約束だよ?絶対一年に一回、会いに来る。」
「うん。約束。だからその時は迎えに来て。」
「ああ。迎えに行く。」
納得したステラはそう言い私の手を引いて歩き出した。
この世界の端に辿り着くまで、私たちは思い出話を沢山したりした。
ステラは本当に子供らしい会話をくり広げた。
「結局妖精さんのサイスには嫌われっぱなしだったな……次会った時は仲直りできるといいんだけど。」
「サイスって誰の事さ?」
「もう、ステラったら冗談ばっかりで私をからかわないでよね?」
「妖精なんてそこら中に沢山いるんだ。きっとそいつはもう死んだんだろ。」
澄まし顔で言うものだから、きっと私が来たことによって部屋にひきこもりっきりになっていたサイスに腹を立てているのだろうと思った。
「そうだ、あなた達も私の世界に来たらどう?きっと私の家族も歓迎してくれるわ!」
「嫌だ。絶対に僕は君の世界では暮らさない。」
「どうして?」
「だって大人になりたくないもん。」
その後も他愛のない会話をして笑いあったり、気づけば直ぐに着いてしまった。
「この世界ともしばらくお別れね。」
行こうか。
そう言い今度は私がステラの手を引き空へ飛ぼうとする。
しかしステラは私の手を握ったまま止まってしまった。
「どうしたの?」
と私は彼の方へ振り返る。
すると突然、彼はナイフを取り出し私に振りかざしてきた。
「え……」
間違いない、彼は私の心臓を狙ってきた。しかし本当に直前で進路が変わり私の腕を掠った。
「ステラ!ねえステラどうしたの!?」
痛みを堪えながら俯くステラを揺さぶる。
「駄目なんだ。一度来たからには君をこの世界から逃がす訳には行かないのさ。」
「……え?」
それに——と彼は続ける。
「それに、大人は駄目なんだ。ここは子供だけの夢のような世界でなくちゃならない。」
そして私はここに来てようやく気がつく。
多少の違いはあれど、童話、ピーターパンをなぞって話が進んでいると。
子供の間引き。
子供をさらい、大人になれば消す。
「ねえ、ルイは今どうしてるのかしら——」
「ルイって誰の事さ?」
「覚えて……ないの?」
信じたくない。
でも、
もしかして——
「もしかして、ルイを——」
「殺してしまったやつの事なんか、忘れてしまうのさ。ああ。僕が消したのさ。大人は要らない。僕が——」
「お願いやめて。もうそれ以上言わないで!」
信じたくなくて耳を塞ぐ。でも聞こえてしまった。
「僕が殺したんだ。」
ステラはなんの感情も出さずにまたあの、当たり前だろとでも言うような顔でそう告げた。
おかしいと思わなかった訳では無い。
ルイが居なくなったあの日、いつもは誰よりも遅く起きるステラが一番に起きていたこと。
そして一度果物を切ろうとステラが取り出したナイフにはベッタリと血が付いていて、不衛生だと止めたことがある。
狩の時に付いたものだと思っていた。
ステラは一緒に暮らした仲間を殺して平然とした顔でその時使ったナイフを使おうとしていたのだ。
「じゃあね、会えて良かった。楽しかったよ。子供の君、ウェンディ。」
そうだ、忘れていた。
私はウェンディじゃない。
それならば童話のウェンディが生きるピーターパンの世界線とは異なる結末を導けるはず。
「まってステラ!」
ナイフを振り上げるステラが止まる。
「私の名前はウェンディじゃない。嘘をついていたわ。私の本当の名前は——」
「そうか。君は最初から僕に嘘をついていた。もう子供じゃなかったのか?大人はそうやってすぐ嘘をついて騙すんだ——」
「違う!子供の遊び心で着いた嘘よ。だからお願い。もうそれ以上あなたは人を殺してはいけない。罪を重ねてはいけない。あなたのやってきたことは決して許されることはない。でもまだやり直せる。だってまだあなたは子供でしょう?ねえ目を覚まして!」
「そうやって子供を騙すんだろう?」
「違う!信じて。一緒にやりなおそう?私はあなたの事を——」
ステラがもう一度思いっきりナイフを振りかざし、下ろす
「愛してる」
「!」
私にナイフが突き刺さる、と思ったが、そんな事は起きなかった。
暖かい血飛沫が顔にかかる。
「……!?どう、して……?」
「……ろ。」
「……え?」
「早、く……逃げ、ろ!」
ナイフが刺さった先は、ステラの腹部だった。
何故?何故ステラは自分で自分を?
もしかして——
そう思った直後、またステラの持つナイフが私に襲いかかってきた。
今度は目の前がいきなり黒くなった。
「早く飛べ!今すぐこの世界から出て元の世界に戻れ!」
ステラの声では無い。
私とステラの間、目の前には黒いローブを羽織った青年が立っていて、ステラのナイフをその一回り大きいナイフで抑えていた。
「でも!ステラを置いては行けない……それにほかの子供たちも……」
「子供たちはまだ大人になるまでに猶予がある。それにこいつはあんたに何とかできるようなものじゃない。化け物だ。」
「そんな……」
「安心しろ、ステラは殺さない。化け物を追い払うだけだ。」
怖い顔をしていた青い瞳の青年はこちらを見、微笑みそう告げた。
そしていきなり私は飛ばされた。
それから家まで自分の意思無く飛ばされ戻ってきた。
まるで何事も無かったかのようなこの世界に。
ただ、腕の切り傷だけが夢でないことを示していた。
その後も飛んであの世界に戻って助けに行こうと試みたが、私は飛べなくなっていた。
元の日常が戻ったのだ。
何故ステラはあの時、自分で自分を刺したのか。
何故あんなにも子供にこだわるのか。
あの青年は何者なのか。
毎日考えていた。
そしてひとつの疑問に至った。
あの日ステラが追いかけていたもの——影は一体何者なのか。
もしかして。
もしかして——
思いついた私はこの街で一番空に近いところ、時計塔の最上階目指して走り出した。
夜の風が余計に嫌な予感を誘き寄せる。
時計塔の最上階に着くと、窓の縁に少年が立っていた。
ステラ……
いや、違う。
「あなたは一体誰なの?」
「やだなぁ、忘れちゃったのかい?ウェンディ、僕だよ。ステラ。」
予感ははずれ?
ステラは窓枠から降りて私に近づいてきた。
「いいえ、私の名前はウェンディじゃない。」
「君だって嘘をついているじゃないか。」
「ステラをどうしたの?子供たちは?ああ、もしかしてこの間のローブの青年が化け物ってやつを追い払ってくれたのね?」
ひとつ、もしそうなら、そうだと信じたい。
だけどその希望は一瞬にして消される。
「気づいたんだろう?俺の事。」
ステラ——否、彼の影が動き出し喋った。
「ステラを返して!」
「ステラは君のものじゃないだろう?」
「……っ、でも、あなたのものでも無い」
影と会話している。
ステラの体はまるで糸の切れた絡繰人形のようになっていた。
「いいや、これは俺の物だよ。そんな事はどうでもいいんだよ。君も気に入ったんだ。俺のものにならない?名前を教えてよ。」
「……」
「ふぅん。どうせステラになら教えるんだろう?まあいいや。」
「あなたは何がしたいの?」
「俺に興味津々?俺はね、ぶっちゃけ何がしたいのか分からない。本能に従ってるんだ。簡単に説明してあげるよ。ざっと五百年くらい前かな、ステラと出会ったのは。ステラが僕と友達になってくれたのは。俺が作った世界に招待してあげたんだ。おまけに大人になりたくないっていう夢も叶えてあげた。俺とステラで仲良く遊んでたんだよ。それである日、人間の作ったさ、ピーターパンって童話あるだろう?その世界と似てるねって二人で話したんだ。それでもっと友達が欲しいねって別の子を連れてきたんだ。」
子供を攫う……
「最初こそは良かったんだ。三人で仲良く。でもステラとその子が二人でよく喋るようになって、俺とステラだけで話す時間がなくなってさぁ。その子が大人になる前の日の晩、俺はこと世界には大人は居れないって言ったらステラがそれならその子をステラみたいに永遠に子供のままに出来ないかって。でも俺は出来ないって言った。でも他に、その子と永遠にこの世界で一緒に居ることができる方法があるよって。」
それが——始まり?
耳を塞ぎたいのに手が動かなかった。
「そしたらステラは僕を信じてその子を殺めたんだ。なんせ、何も知らない無知な子供だもの。」
許せない。
「まだ話は続くんだ。喋らないでね。」
怒りが収まらないのに声が出なかった。
「それで、話さなくなったねって、また新しく友達を増やそうってね。でも途中でステラは気づいたんだ。もうこんなの辞めようって。でもね、」
でも?
「辞められないだろう?こんな楽しいこと。俺とステラ、友達だろう?二人でひとつだろう?って。」
こいつが——この影がステラを呪っていた。
ふはっと笑う影に向かって私は叫んだ。
言葉にならない叫びと共にステラの装備してあるナイフを取り影に向かって振り下ろす。
「触った。」
しかし影はその後気づけば私の顔のすぐ近くに来てそう囁き、ステラ諸共空へ向かって消えてしまった。
それから直ぐに私の体に変化が現れた。
まるで私が私じゃない何かに飲まれていくような感覚に目眩がした。
自分の影がニヤっと笑った気がして私は急いで家に帰ってきた。
そして今、この出来事を書き終えた。
影に憑かれる前に。
どうか、これを読んだらどうか。
ステラを————
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