六年前——

 

 「もーいーかいー?」

 木の前で目を伏せるオレンジ色の髪の幼いの少年。

 「もう待ちきれないよ。探しに行く。」

 日が沈みかけていた。

 少年は草原を見渡す。

 そして小屋の方へと走って行く。

 「兄ちゃーん!どこー?」

 そして思いっきり叫んだ。

 「俺の負けでいいからさ!あーでも俺今日一回も勝ってない……でも兄ちゃんそろそろ帰らないとご飯の時間だよ!」

 返事は無い。

 小屋の扉の向こうからガタッと何かが落ちる音がした。

 「ここだ!!」

 扉をギィィと開ける。

 猫が出てきて走り去って行った。

 「もしかして帰っちゃったの?」

 ムッと頬を膨らませ呟くと、少年は家の方へと駆け出した。

 明かりの灯った家。

 「ただいま!」

 扉を開け、そう叫ぶ。

 いつもなら暖かくおかえりと言ってくれる母の声が今日は無い。

 「あれ?お母さん?」

 裏口の扉が空いていた。

 少年は不安げに扉の方へ駆け寄る。

 「ああ……おかえり……」

 そこにはいつもと全く雰囲気の違う、疲れ果てたような目をした母親が立って外を覗いていた。

 「ただいま!兄ちゃんもう帰ってる?かくれんぼで俺がもういいかいって聞いても全く返事してくれなかったんだ。きっとまた俺を放って帰っちゃったんだ。」

 「……そう……」

 「何見てるの……?」

 少年は母親の視線の先へ、外へ目を向けた。

 「兄……ちゃん……?」

 そこには、こちらに背を向けた父親が立っていた。

 そしてその足元には、赤い水たまりができていた。

 返事は無い。

 「ねえ、兄ちゃんはどこに行ったの?」

 「……」

 「ねえ、兄ちゃんは——っ!?」

 とたん、少年の体が宙に浮き、地面へと打ちつけられる。

 「おいクソガキ、お前も居なくなりたくなければ俺に従え。」

 いつもと別人のような父親の手には、包丁が握られていた。

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