第24話 自爆型エロ飯テロリスト
彼女が風呂から出た後、僕も風呂に入った。
「どうせ入るんだから一緒に入っても変わんなくない?むしろ光熱費的に節約に――」
「羞恥心を節約すんな。パンツとか脱ぎっぱなしにしやがって……」
洗濯物を入れてるカゴの一番上に放り投げるようにして置いてあって、心臓が縮み上がったんだけど。
ほんと、こいつ、なにしてくれやがるんだか。
「散々見てんじゃん。裸だって見てるのに……」
「見てるんじゃない、見せられてんの。能動じゃなくて受動。わかる?」
「わ、懐かしい。あったなぁ。受動態と能動態!どっちがどっちか忘れたけど!」
もうため息しか出ない。
なんで怒るのが僕で、怒られてるのが彼女なんだろう?フツー逆じゃない?フツーさ。
「服、こっちにあるでしょ?なんで着てないの?」
「暑いから?」
彼女は首を傾げてるけど、この部屋はエアコンが効いてるし、なんなら彼女は今扇風機の目の前。暑いわけがない。にもかかわらず、なんで下着すらつけてないのか、僕には意味がわからない。すっぽんぽんだよ?すっぽんぽん。人ん家で。マジでなに考えてんの?
「あ゙〜」
扇風機に向かって声を出してるし。
いや、わかる。やりたいのはわかるよ?けど、なんで素っ裸でやってんの?風邪引くよ?
ムカつくからスマホのカメラレンズを彼女に向けて1枚。ついでに動画も撮ってやる。
こう言ってはアレだけど、カメラとか編集とかいろんな技術とか人の手が入る
「1枚1万、動画1分5000円」
カメラを向けてる僕にパーに広げた手を向けてきた。
「高すぎ」
「いや、そんくらいかかるんだって。マジで。この身体を維持するのに」
知らねえよ。見せられてるのに金まで取るとか、ヤクザかよ。
だったら僕にだって考えがないわけじゃない。
「なら宿泊費、今まで分も含めて請求しようかな」
彼女専用、ってわけじゃないけど、本来なら1組でいいはずの布団がウチには2組あるし、椅子だって2脚ある。コの字に組んだテーブルだって本来は全体が作業スペースのはずだったのに、今じゃその一角どころか一辺がまるまる彼女のメイク道具置き場になってる。
言うまでもないけど、部屋にあるものは全部僕の懐から出てるわけで。
割と強気に出たつもりだったけど、彼女は「ふん」と鼻で笑った。
「別に払えないわけじゃないけど?払ってあげようか?」
ニヤリ、と不敵に笑った彼女に薄寒いモノを感じた僕は慌てて首を振った。
「カラダで、とかいいそうだからやめとく」
「え〜!なんで!?せっかくのチャンスなのに!そんなことしてるからいつまでも彼女できないんだよ!?」
うるさい。余計なお世話だ。それに彼女の魂胆が透けて見える。もちろん、僕はしっかりそれを指摘する。
「そのまま泊まる口実にするでしょ」
「バレたか。ここ、居心地めっちゃいいんだよねぇ」
「ホテルじゃないんですけど?」
動画を撮ってるのを止めると「送って」と彼女が言うので、僕はメッセージアプリに送ってやる。
「ふ。ヘッタクソ」
「うるさいな」
腹いせで撮っただけなのに、なんでケチをつけられるのか。
「撮るならもうちょっとキレイに撮ってよ。拡大しすぎてガビガビじゃん」
こことか、と素っ裸のまま近寄ってきてお尻のラインを指す彼女。
「だから服を着ろっての」
「着たら撮れないじゃん。夜のオカズにするには雑すぎない?」
何を言ってるんだこいつは。こんな限界女子、オカズにするわけないだろ。
なんて言ってる間に、僕は追い詰められていた。
「ほれ。このくらい近くに来れば撮れるでしょ」
「撮れって?」
「お金はいらないから」
「いやいや、なんで。オカズは間に合ってるからいらないっす」
「そんなこと言わずにさぁ。くっさい連中にキモい目で見られたって事実をアサカに見せてなかったことにしたいの。要は浄化だよ。浄化。ついでにアサカは夜のオカズをゲットできてウィンウィン。やったね!」
どこがだよ。
いつまで経っても着る気がなさそうなので、僕は彼女の着替えが入った箱から服と下着を出して彼女に投げつける。
「ん?アレ?上下、あってないよ?それからこれ、脱がせるなら大変だと思うけど。いや、そもそも脱がせるって、脱いでるんだからさっさと――」
「それじゃないと寝れないって言ってなかった?」
「……」
しぶ〜い顔。
「服はまあ100歩譲るとして、下着くらい着たら?」
「じゃあ、履かせて」
ドサっと僕の椅子に座って彼女は玄関でブーツを脱がせたときと同じように足を上げた。
ここまで来てようやく僕は彼女の様子がおかしいことに気付いた。
風邪?と思って、彼女の額に手を当てたけど、いつも通り。
「変なモノ食った?」
「食べるわけないでしょ。なにが仕込まれてるのかわかんないのに、食べるわけないっての」
心当たりを聞いてみたけど、ガチトーンだからほんとに違うっぽい。なんだろ?
「声かけてきた男がゴミすぎた」
「それはいつもでしょ。まあ、今日は特別アレだったけど」
それもそうか。じゃあ、なんだろ?
パンツの穴に彼女の足を通して履く一歩手前まで引っ張ると、耳元でぐるるるる〜、とドラゴンの唸り声のような音が聞こえてきた。
「わたしじゃないよ?」
「そんな言い訳が通じるとでも?」
僕の言葉を後押しするようにドラゴンの唸り声が彼女に追撃を加えた。
「……」
「チャーハンとラーメンにしようか」
「焼肉も追加で。お金は出す」
図々しい、というか、なんというか。
とりあえず下着は着てくれたから良しってことにする。
「あ。そうだ。日焼けしてないか見て欲しかったんだった。サクッと見てくんない?」
だったら、早く言えよ……。
僕の家の近所で夜中にチャーハンにラーメン、それに焼肉なんて要望を纏めて一気に解決してくれる場所なんてあるわけがない。
ということで、材料だけ24時間やってるスーパーで調達してきて食べることに。
「スズに会ってから海に行ったの?」
「当たり前でしょ。用事があったとしてもスズ優先」
中華鍋を持ってる僕の横で彼女は瓶ビールをラッパ飲み。
腹が減ってると「腹減った〜」とうるさい彼女の腹を黙らせるため、つまみに惣菜の餃子をシンク横のスペースに置いてある。
「っくぅ〜!効く〜!」
ちなみにジジくさい彼女の背中には湿布、ではなく冷却シートが貼られてる。
炎天下の中、4時間も海にいた代償はかなり大きかったらしい。見た目もそうだけど、触らなくても服とかで擦れたりするとヒリヒリするとか。これも「だったら最初っからそう言えよ」って話なんだけど、「何も着てなくて迫ったときの反応が面白そうだったから」という彼女のしょーもない理由で言わなかったらしい。まったく、はた迷惑な。
「海の家で飲んだんじゃないの?」
「海に入れなくなるから我慢したの!」
「入った後は?」
「……気づいたときにはここだったよね」
限界まで遊びきったのか。彼女らしいと言えば彼女らしい。
3人前のチャーハンをカレー皿に移して中華鍋を水で流し、再度火に当てて一気に乾かして油を敷く。ホットプレートなんか使わない。洗うの面倒だし、部屋の中を油まみれにしたくないし。「焼く」ができれば何でもいいなら、中華鍋の方がうまく焼ける。
「焼肉はセルフで」
彼女に取り皿と箸、スプーンを渡して僕はキッチンと部屋の間にある段差に座った。行儀は悪いけど、キッチンで座って食べるスペースなんてないから立ったまま。座りたかったらまとめて焼いて別の場所で食べる。ちなみにチャーハンはシンクの上に渡した水切りの上に置いてある。
「おっけ。じゃあ、早速――」
左手にビール瓶を持ったまま、右手でトングを使って中華鍋の中にパック半分の肉をぶち込んだ。
焦げつき防止で少し多めに入れた油が跳ねて火が上がる。
「うぉっほい!あっつ!?」
「入れ過ぎ!ってかパンイチでやるな!!」
「うっさいなぁ!いいの!焼肉丼にするから!」
彼女はそう言ってすぐに肉を引き上げた。多かった油のおかげで表面に焼き色が付いてるけど、中は絶対生だ。そうでなかったとしても中心まで火は通ってない。
棚からアルミホイルを出した彼女はそのまま肉をホイルの上に置いていく。
「うぇっへっへっへ」
気持ち悪い笑みを浮かべて焼肉丼を作り、それを肴にどんどんアルコールを摂取した彼女は翌朝しっかり二日酔いで沈没した。
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