第2話

まだ見ぬ広大な景色や美味しい食べ物、

そして心踊るような愛弟子との出会い。

汗たぎる暑い熱血な師弟関係。


そんなキラキラでギラギラな旅。

その1日目を報告します。


牢屋にいます。

いや参ったね。


状況から察するにやはり王宮内で話題になっていた人さらいで間違いなさそうだ。

あれから馬車は速度をぐんぐんとあげ走り続けた。

小窓から陽が差し込まなくなった頃、馬車は止まり輩に囲まれたと思えば、

見惚れるような手際のよさであれよあれよとわたしはされるがままに牢屋へ入れられてしまった。


牢屋にはわたし以外に10人ちょっと捕らえられていた。

ひとまずはまだ誰も害されていないようだ。

安心安心。ただこの状況がいつまで続くかなんて保証はない。


「大丈夫です」


牢屋の中のひとりの少女は立ち上がると、赤髪をなびかせそう言い放つ。

腰まで伸びる赤髪は状況も相まってかなかなか様になっている。

わたしの銀髪ショートだって負けてないけど。


「王国軍がすぐに駆けつけてくれます。諦めずに救助を待ちましょう!」


ただ彼女の声掛けに反応は薄い。

それでも彼女はもひとりひとりに声をかけて周っている。

なかなか出来ることじゃない。まだ若いのに立派な人だ。


ただみんな知っているのだ。救助はないと現実を。

一度諦めてしまった人は簡単には立ち上がれない。


ただ安心してほしい。

ここにはあの元王宮お抱えの大魔法使いシズ様がいるのだから。


さぁて、なんて言って登場しようか。

今はまだモブAである。突如現れたモブAが救世主になる。

これは熱い。もしかしたらこの中から弟子志望ができるかもしれない。

よしいくぞ――


「わた」


その時だった。

ひとりの男が立ち上がる。


「そうだよな姉ちゃん、諦めたらお終いだよな。ここにいる全員で力をあわせればなんとかなるかもしれないよな!!」

「ええ。そうだわ。諦めないわよ。ありがとう赤髪のお姉さん」

「ぼ、ぼくも頑張る。ありがとうお姉さん!!」

「ありがとうお姉さん!!」

「あんたはまるで救世主様だな」

「お姉さん!お姉さん!(赤髪の)救世主!救世主!(赤髪の)」


あれれ。


「みなさん。ありがとうございます。力を合わせて必ず脱出しましょう!!」

「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!」


あれれ。

あれれ。


▪︎▪︎


「次は分かりますか?」

「あ、次右です。はい」


あれからというと、わたしは栄えある道案内役に任命(屈辱の立候補)され、その力を存分に発揮していた。


「凄い。本当にあなたがいてくれてよかったわ」

「あ、いえいえ。わたしにはこれくらいしかできませんから。救世主様」

「救世主様はやめてほしいわ」

「あ、救世主様そこ段差あります」

「む。私はシエリ・ファルムベルといいます。あなたは?」

「シズ。ただのシズ」

「ではシズ。どうやら見張りが気づいたようです」

「そうだね。背後は騒がしくなっている」

「やっぱり」


この入り組んだ洞窟で人員配置が少ない道を選んできたが、どうやら気づかれたらしい。

わたし達だけなら十分に逃げれるだろうが老人や子供もいるんだ。ここまできて見捨てるわけにもいかない。


「では救世主様。わたしが相手をします。時間稼ぎくらいはなんとかします」

「それはダメです。この洞窟の出口が分かるのはシズだけなのですから」

「あ…そういえば、そうでしたね。では、小さな案内人スモールライト


便利な魔法をひとつ。

宙にふわふわと小さな明かりが灯る。


「…これは」

「この子に付いていってください、そうすれば出口まで案内してくれますので」

「し、しかし」

「わたしにも格好つけさせてください」

「…わかりました。ただ先で待っています。必ずご無事で」


わたしは彼女達を見送り、踵を洞窟の奥へと向けた。


べつに。

自己紹介ができなかったから賊どもに鬱憤晴らしてやろうとかではないよ!!

べつに。

後ろの人たちの目が「救世主様にいかせるな、お前がいけ」って言ってたからじゃないよ!!!!

べつに。

あんな黒髪に負けてなんかないんだから!!!!!!


…………。


そう待たずして、わたしの前にガラの悪いザ・悪人達が立ち並ぶ。


「さてと。いろいろムカつきまし、いっちょぶっとばしますか」

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銀髪のサンド・ウィッチ。あるいは最後の魔女 笹草パンダ @nanase_maru

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