銀髪のサンド・ウィッチ。あるいは最後の魔女
笹草パンダ
第1話
「ひゃっっはーーーーーー」
雄叫びとともに馬車は大きく揺らぎ速度をあげる。
どうやら人さらいに遭遇してしまったようだ。
そういえば最近王宮内でも行方不明者がでていると話題になっていたな。
しくったなぁ。
旅の初日からこれとはまさに幸先不安である。
王国も平和になったとはいえまだまだ課題は山積みだ。
身を以て体感するよ、これは陛下もそう簡単には退位できないぞ。頑張れ。
わたしひとりならどうにでもできるが、周りには子供も老夫婦もいるしそうはいかないか。
これでもつい先日まで一応宮廷勤めの身分だった手前、
見捨てるというのも夢見が悪くなりそうだ。
陛下にもお世話になったことだしここは1つ恩返しといきますか。
と決まれば、わたしはあえてこのまま連れ去られるとしよう。
やるなら徹底的に――わたしの数ある座右の銘のひとつだ。
▪︎▪︎▪︎
「シズよ。どうにか考え直してはくれないか?この通りだ」
「陛下。どうか頭をおあげください」
イグルス王国、国王陛下その人に頭を下げさせる人物などそうはいない。
それだけシズという名の人材は貴重なのだ。
まぁわたしなのだが。
「やはり、無理か」
陛下は全てを悟ったような表情を浮かべる。
思わず決意が揺るぎかける。が耐える。
「せめて理由だけでも聞かせてくれぬか?」
理由と聞かれても言ったら納得してくれるだろうか。
それっぽい理由でも伝えるか?
飽くなき魔術の探求心に従い旅に出るとか?
敵国にスパイとして潜入とか?
ここはいっそ世界征服とか?
…ないない。
ここは正直に話すとしますか。
わたしはとびきりの笑顔を浮かべる。
「弟子でもとろうかと思いまして!!」
一瞬の沈黙が流れる。
「……それは今じゃないとダメなのか」
「そうだね。今じゃないとダメなんだ」
陛下がなにかを言おうとして飲み込んだ。
なにを言おうとしたことは分かる。
「そうか…寂しくなるな」
陛下はそう言うと笑ってみせる。
昔から変わらないな。そう思う。
「そこまで言うんだ。弟子の候補くらいはいるんだろう?」
盲点だった。
お察しの通り全くもって無策である。
しかしだよ当然といえば当然じゃないか。
今まで弟子をとったことがないのだから、どうすれば弟子ができるのかなんて分からない。
ただわたしにも威厳というものがある。
立ち去る側である以上、きちんと立ち去らなければいけない。
「ふっふっふ」
ゆえにそう言い残し部屋を立ち去ることにする。
「ち、ちなみにさ。ラルージャはわたしの弟子にならない?」
「…光栄な話だけど遠慮させてもらう。俺は国王だからな」
本当に立派になったものだ。
親の気分になった思いだよ。
「そうかい。では陛下、よい今日を」
「ああ。サンド・ウィッチ、よい明日を」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます