第3話身辺捜査

黒井川は死んだ立神の身辺捜査を開始した。

村越デパートの経理部長であってが、長年の使い込みが発覚して、トラブルを抱えていた事が分かった。

立神は立松町に移住しようとしていたらしい。

立松町のスーパーの事務員として面接を受けていた。

デパート側は、使い込みの件で訴えようとしていたが、全額返済を申し出て訴訟は無くなった。

立神は殺される理由があった。

しかし、それは使い込みだけが理由では無いことを黒井川は考えていた。

この町の人々の過去。


黒井川と戸川はいつもの居酒屋まさきでビールを飲んでいた。すると、店内のテレビで立神昇が変死体で発見された事が流れていた。

もちろん、朝の事だったので新聞にも取り上げていない。

その中の一人の客、松本健一が呟いた。

「へっ、コイツ殺されても当然だ」

と。

黒井川は聞き逃したりしない。

平岡家族は昨日の客が亡くなった事を信じられない様子でニュースを見て、小林千紗は静かに酒を飲み、友人の山田貴子と岡田純一は何やら話していた。

翌日、黒井川は松本健一の職場に向かった。

松本は小さな町工場の職人だった。

「すいません。お忙しい中」

「いいえ。刑事さん、一体何事ですか?」

「あなたは、立神昇をご存知でしたね」

「はい」

「どのようなご関係で?」

「……」

黒井川は、じっと松本の発言を待った。

「……もと同僚です。アイツに騙されたんだ。私も寺前も」

「どういう事です?」

松本はソワソワしながら喋る。

「アイツの使い込みの事実を知り、訴訟しようとしたら寺前に使い込みの罪を被せて、アイツは自殺したんです」

と、日本語が少しおかしい。それを、黒井川は気付いていた。

「松本さん。つまり、立神が犯した罪を押し付けられたんですね?」

「そうです」

「その、寺前と言う方は?」

「私と同期です。寺前は失望して自殺しました。私もデパートを追い出されました」 

「それは、何時の事ですか?」

「10年前です」

黒井川は松本に尋ねた。

「昨夜の、夜中の1時頃、どちらにいらっしいましたか?」

「……自宅で寝てました。夜中、腹が減ってコンビニへ一度行きましたが」

「なるほど。分かりました」 

「刑事さん。アイツは殺されたんですか?」

「まだ、何とも。お忙しいのにすいませんでした」

黒井川は同席した川崎に呟いた。

「こりゃ、簡単な殺人事件じゃないな」

「松本が犯人でしょうか?」

「たぶん、違うと思う。懐中電灯は見つからない。犯人が処分したんだ。殺害現場を解らなくするために。川崎君。話しの寺前さんを調べてくれ」 

「かしこまりました」

黒井川は、タバコに火をつけた。

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