第31話

沈黙が続くと、秋也が呟いた。


「夏莉はふゆちゃんのこと好きじゃないのに、好きでいてくれってさぁ……それ、ふゆちゃん可哀想じゃない?」


夏莉は何も言わなかった。

秋也が笑いもせずに意見するのは本当に珍しい事だった。そうして、ポテチを口に放り込んで、もう一度話し出した。


「ふゆちゃんはさ、夏莉と付き合いたいの?」

「そりゃぁ……」

「じゃあまずちゃんと告白すべきじゃない?それこそ―――5年越しの告白。」

「いや、さすがに」

「じゃあ振られずにこのまま生きるの?」

「……振られる…んだもんな。振られて俺は…どう生きればいいんだろう。」

「気持ちはわかるけどさ、もう当たって砕けて諦めるしかないんじゃない?俺は知らんけど」

「えぇ…………」


もやもやが心に残る。それこそ、奥歯に何かが詰まっているような、そういう感覚。


「私はさ、告白されて振っても気まずくならないよ。でも。ふゆちゃんの言い方からすると、振られても楽になれないんだよね?」

「それは……そう、というか、付き合いたいと思ってたのは5年間、ずっとだから」

「そう…振られるって、なんでわかるの?」

「そりゃ、3年一緒にいたんだしわかるよ」

「でも、もうこれって告白じゃない?」

「違うよ…ちゃんと言ってないから」

「そっか」


また、沈黙。

ポテチもお菓子も、秋也が食べた分以外は減らない。春希も夏莉も言葉を探っているような、そんな顔をする。


俺なんかが夏莉と付き合うことができないのは苦しいくらいにわかっている。でも、改めて本人から「私はNoだよ」と言わんばかりの立ち位置を見せられると苦しくなる。


そういえば、好きと明かしたのは、当たり前だけれど初めてだった。意外なことに夏莉は驚くことも気持ち悪がることもなかった。本当に、ノーリアクション…感情が動いていないのは顔でわかった。好きだった、いや好き、と言われても動じない程経験があるのか……それか、バレていたのか。

何を思っているのか、無表情で何かを見つめる夏莉も、やはり綺麗だった。こんな美しい人が隣に立っていたら、きっと街中で笑われるだろう。その覚悟も固まってすらいない時点で、心の底から付き合えると思っていないんだ。


死ぬまで隠そうと思っていた。

ただこんな感情を隠してこの先何年も関わり続けるなんて、無理だった。日に日に大きくなる気持ちと、苦しみに耐えられる気がしなかった。でも、3人のいない日々は退屈で…死にたかった。だからこそ、今ここで明かしてみんなにもわかってもらって、助けてもらおうとしている。空回りなのはわかってる。俺に浮かんだのはこの選択しかなかった。

でも……


「……なんか答え出ないならさ、ふゆちゃんの告白は一旦保留にして、とりあえず秋也の告白でも聞いたら?」

「なんで俺が!?」

「別に俺が先でもいいけど……いや、俺が先の方がみんな話しやすいか。」

「春希……いや、俺が先に話すよ」


秋也はもう、覚悟を決めた顔をしていた。

俺の告白をきっかけに、みんなが全てを話してありのままでいられたらいいと……そう思って提案したはずが、何故か罪悪感が湧き始めていた。この覚悟の前で、もういいよ、なんて言葉はかけられない。

秋也の告白がどんなものか想像もつかず、息を飲んでしまう―――もしも、この中の誰かを…夏莉を好きだったら、どうしよう。そんなことを思ってしまう自分を殺したくなった。

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