第28話


そうしてあの日から、俺は夏莉への想いに一層強い鍵をかけた。バレて4人がバラバラになるのも嫌だが、それ以上に夏莉に恋人ができる度にこんな苦しい想いするのも耐えられないからだ。かと言って、俺が恋人になる気はない……いや、ないんじゃない。なれないのはわかっている。隣に並んでいい存在ではないんだ、夏莉の中の特別なその枠を、俺なんかが奪うなんて最低なことは許されない。


そんなことを考えながらいつも通りの日を過ごしていたが、4月になる少し前から不穏な空気が漂ってきた。2年生になったことを喜ぶ前に、緊急事態宣言が発令された。


家族以外誰とも会わない、そんなのは今までの人生では当たり前だったはずなのに、今となっては苦しくて耐えられなかった。なにか新しいチャレンジをしようと思って、夏莉に褒めてもらいたくてダイエットをした。やり方を間違えたのか体調を崩して、そして独りになった自分の無力さを感じた。

異様なほど落ち込んだ世界に、どんどん堕ちた。3人に会いたくて、また遊びたくて……ただそれだけなのに叶いそうにもなくて、死んでしまいたくもなった。


「ふゆちゃん……痩せた?」

「…ホント?」


久々に行った学校で夏莉に言われた言葉は、ポジティブなものではないのはすぐにわかった。


「すごく……大丈夫?食べてる?」

「大丈夫だよ……夏莉こそ」

「え、私!?」


夏莉は元々スリムな体型だったが、本人も自慢してた頬が少し痩けていた。


「ま、このご時世だし仕方ないのかな」

「うん」


この会話を皮切りに、夏莉は見るからに焦りだした。思い出作りに焦っているのか、みんなを楽しませようと焦っているのかはわからない。ここに行こう、あそこに行こう、と毎日提案して、放課後にどこかに行っては、休みも集まることが増えた。秋也も春希も何も言わないのは、焦ってくれて助かったのもあると思う。みんな、早くあの毎日を取り戻したかったんだ。マイクカバーなんてつけたくなくてもつけて、密回避のために公園で散歩して、アクリル板越しに色んな話をした。

一度だけ夏莉が言った、「地球から抜け出したいね」というワードが頭から離れなくなった。


「ねぇ、明日遊園地行こうよ」


8月の猛暑、午前10時。春希の家で各自がアイスドリンクを飲んでいると、夏莉はイタズラな笑顔で提案した。


「こんな暑いのに!?」

「だってさ!ほら!ここ行ってみたかったのに今年で閉園だって……その前に行こうよ!」

「……まー、いいんじゃない…すか?」


珍しく、賛成したくなった。


「ん?何の話?」

「秋也さぁ……ほんと人の話聞かないよね」


クーラーガンガンな部屋から予約した遊園地。

家から電車で30分、飛び込んだ遊園地はたまらなく楽しかった。


夏莉はきっと、「みんなが必死な自分に付き合ってくれてる」と思ってたと思う。

でも、俺は……「必死なみんなを夏莉が必死に引っ張ってくれた」と、今も思うよ。


その帰り、クサイことは言いたくない、なんてよく言う春希が真っ先に言った。

「俺さ……4人でいるの、最高だと思うわ」

「俺も俺も!!!!!マジでそう思う!!」

クサイとか気にしない秋也は笑って、

「……まぁ、俺もそう思うよ」

俺も、らしくないけど同意してしまった。

そうすれば、両手を広げ跳ねる夏莉。

「あったりまえじゃん!!みんな大好きだよ、本当に。」

「あー、やっぱ夏莉がいちばん重いわ」

「重いって何ー!?重いって!?」


……ごめん夏莉。みんなに重い扱いされてるけど、俺がいちばん重いんだ。3人がいなければ毎日がグレーで生きる価値を見失ってしまう程なんだ。何より、夏莉が好きなんだ。今すぐその笑顔を自分だけのものにしたい。苦しい……俺の事を、絶対に好きになってくれないから。

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