第三章 真冬

第25話

「俺は……俺の告白は、高校1年の頃に遡るんだ。長くなるけど、静かに聞いて欲しい。俺の、俺自身の高校生活の話を。」




俺の高校時代の記憶は、入学から三日目の通学路で始まる。その日は、オリエンテーションの予定で集合場所は別館のような場所だった。校庭を突き抜ければ行ける場所で、迷う人なんていないと思っていた。

四月の癖に暑い強風が吹き、気候がイカレちゃったのかな……なんて考えていた瞬間だった。黒髪靡かせながら、不安そうに周りを見渡す女の子がいた……確か、自己紹介の時にいたはず。同じクラスか。そんなことを考えていると、彼女は振り向いて、俺に気づいた。


「あ!!!橘くん……だよね?」

「うん……よく覚えてるね」

「自己紹介頑張って聞いてたからね!!」

「……別館行かないの?遅刻するよ?」

「あ!!あのね、隣のクラスの子が おばあちゃんの形見のハンカチを落としちゃったかもって……だから探してて」

「あれじゃない?」


遠くにある、目立った赤色のハンカチを指差す。


「ああ!ありがとう!!!!届けてくる!!」

「ちょっ……届けにいってたら遅刻するよ……」

「大丈夫大丈夫ー!!!あ!橘くん先行っててね!!」

「え……ええ……」


入学早々、凄いお人好しと出会ってしまった。笑顔の眩しい、お人好しと。

そうしてそそくさと別館に入るが、俺と会話する人なんて誰もいない。そりゃあそうか。

入学して三日目なのに、みんな友達ができているもんだ……不良とかもゴロゴロいるし、すごい学校だなここは。


「えーと、ん?1人足りないな…3日目からサボりか〜〜?誰か城野夏莉、知らないか?いや……入学してからすぐだしみんな知らないか」


不機嫌そうにボソボソ呟く担任に、急いで駆け寄って「城野さん人助けで遅れてます。もう校内いるんで、すぐ来ると思います」と伝えると、「人助けぇ?こんなとこでぇ?」と笑われた。伝わったのか分からない。ちゃんと先生はわかってくれたのか。城野夏莉という女子が、お人好しで、人助けしちゃって遅れるって…………いや、伝わるわけないよな。


「すみません!!遅れました!!!」


めちゃくちゃでかい声で別館に入ってきたのは、城野さん本人だった。


「お前か〜、人助けしてきたってやつは〜」

「え!なんで知ってるんですか!」

やめろ。

「そこの男子が教えてくれたんだよ」

やめてくれ。

「橘くん!!!!!ありがとう〜〜!!」

やめてくれ―――――

「どういたしまして」


目立ちたくないんだ。

人と会話するのも得意じゃない。

城野さんが俺の手を掴んで跳ねれば、みんな見る。こんな可愛い女子に入学早々居合わせただけで手を掴まれた男。そう思われるのが怖い、もう関わりたくない……。


そう、心底思ったはずなのに、それから俺は一度も彼女から目が離せなくなった。

グループができていく中、上手く馴染めずに似たような趣味の男子――松田秋也と楽しそうに笑う彼女を、毎日自然と眺めてしまっていた。


「好きなの?あの子」

「え!?」

「ふーん……センスいいね」


そう言いながら俺の机の上のシャーペンを手に取って、開きっぱなしのノートの端っこにきれいな字を書かれる。


「俺、こういうもの!よろしくぅ」

「こういうものって……言い方」


圭原 春希の文字。


これが、春希との出会いだった。

夏莉との出会いよりも、衝撃的だった……。


「ま、俺応援するからさ!俺ら仲良くしようぜ」

「応援とか別に……」

「つまんねーこと言うなよ!」


ブラックコーヒーを……こんなにもわざとらしく平気なフリして飲む人は初めて見た。


「真冬……ふゆちゃん、ふゆちゃんだな。今日からふゆちゃんって呼ぶわ!よろしく〜〜」


そう言って去っていく彼に困惑して仕方なかった。

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