第23話

ふゆちゃんはティッシュで机と服を拭きながら、大きな声を出した。


「宇野に告られたァ!?」

「宇野に告られたって……誰が?」

突然の秋也の声に驚く。

「秋也!遅かったな!」

「ごめん!てか待って、なんで唐揚げ揚げてるの?」

「お前唐揚げ好きだったろ、ほら、夏莉たちの方座って待ってろ」

「よっしゃあ!」


秋也がスキップしながらこっちに来るが、春希はもう一度「宇野に告られたってどういうことだ」と叫び出す。ふゆちゃんも頷き、私を見つめる。


「あの件の時、保健室で宇野くん泣いてたから落ち着いて欲しくて抱きしめちゃってさ……それで、惚れられちゃった的な。」

「マジ!?宇野の事抱きしめたの!?」

「うん」

「うそぉ〜、学年のマドンナが!?」

「は?」

「シッ!!秋也!!お前もう黙ってろ!!」


春希は両手に唐揚げの皿を持って、食い気味に私の顔を覗き込んだ。


「で……付き合ったの?」

「付き合うわけないじゃん。」

「なんでよ?」

「好きじゃない人と付き合いたくな〜いのっ!……おいしい〜!!」

「唐揚げつまむな!!ちゃんと箸で食え!!」

「ごめんなさ〜い」


春希は本当にいつになく楽しそうだ。

唐揚げの味は過去1ってレベルで美味しい。

相変わらず家庭力高いなあ……なんて思ってしまう。


「ねぇ」


ふゆちゃんが小さな声を発した。


「ん?」

「宇野って優しいじゃん、なんで好きじゃなかったの?」

「なんで?うーん……よくわかんないけど、とにかく好きじゃなかったな。振った時は悲しそうな顔されて罪悪感凄かったけど、それでも付き合おうとは思えなかったから」

「好きだったら……付き合ってたの?」

「そりゃぁ〜そうでしょ、そんなことはいいからふゆちゃんも!」

そう言ってふゆちゃんの口に湯気の経つ唐揚げを運ぶと、

「あっつ……!」

と言って、口を抑えだした。

多少強引だけど、会話を辞めるにはこうするしかなかった。黙って咀嚼するふゆちゃんを見て、安心する。

そして、春希と目が合う。

また……その見透かしてる目。


「それで言えばさぁ、夏莉って骨折までさせられたのに卒業式富田たちと肩組んで写真撮ってたよな?」

「和解したのよ!和解!」

「骨折させられてんのに〜?普通に犯罪だぞ?」

「だって私も悪かったし…………それに…………えぐい量のお菓子もらっちゃってさぁ!」

「お前ほんっとにチョロいな」


ゲラゲラ笑いながら唐揚げを摘んでいると、だんだんあの頃に戻ってきた気持ちになる。

私が拘った、どうしても戻りたかった、4人に。そして、誰も何も変わっていない。

秋也の気持ち、春希の気持ち、そしてふゆちゃんの――――――。


「あーあ、マジ腹いっぱい!」

「じゃあ今から〜、スマブラする〜!?」

「お?夏莉から言い出すなんて珍しいなあ!」

「私が頂点取ってやるよ!!!」


小さな幸せというよりは、大きな幸せ。

高校の頃、こうやって集まってスマブラして……そんな記憶も今の記憶に塗り替えられるほど、明るくて楽しい時間だけが過ぎていく。ずっとこのままでいたい、今日だけじゃなくて、明日この家で目が覚めた時も楽しい気持ちでいたい。明後日みんなが別々の場所にいても、心は繋がっていたい。

少し重すぎるかもしれないこの感情を口にはしないけれど、なんて思いながら重い唐揚げを口に運ぶ。

誰か気づいていて欲しい。私のこんな重い想いを。誰も言わないで欲しい、想いを。言わなくても気づいてくれればいい、そして……気づかないで欲しくもある。


笑っているふゆちゃんの横顔を見て、何だか申し訳なくなっただけだった。

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