第22話
「―――自分のした事くらいちゃんと反省しろ!お前とはしばらく話したくないし顔も見たくない。大人げないことすんなよ………って、夏莉、とふゆちゃん」
怒鳴ってた春希は私たちの顔を見るなり、悲しそうな顔をした。
ああ、この人は怒りたくて怒ってるんじゃないんだとすぐに理解した。本当は言いたくもないことを、秋也の為に言っている。それがどんなに辛いことか、私は知っている……何度も、何度も。
「秋也、武勇伝にはならないからね。富田たちが笑ってくれたのも、お前おかしいなって、悪い意味の笑いなんだよ。」
そうとだけ伝えて秋也の顔を見るが、秋也は下を俯いて泣いているだけだった。そりゃそうだ、秋也にとっては大切な春希に…そんな春希に、怒鳴られたんだから。
でも情けない。行動も高校生の悪ノリにしては子供すぎるし、全てが大人げなくて情けない。
「てか夏莉、汗……どした?走ってきたの?」
春希にそう言われ、ハッとする。
確かに汗は止まらない。最早滴っている。真冬なのに……止まらない。いや、暑さから来てるものじゃない以上当たり前か。
「えーっと……ハハッ、なんかね、焦っちゃって――――」
「富田に殴られたんだよ」
ふゆちゃんが真顔で…それだけ言った。
本当にそれだけだった。
春希は「は?」とだけ言って、黙った。下を俯いていた秋也は、涙を拭いながら私を見つめる。
「なんで」
「いやぁ〜ちょっと〜ね、うん、あはは」
「保健室連れてくぞ。秋也とふゆちゃんは教室戻っとけ。ほら、夏莉はおんぶ!!」
「……お、重いからいいよ」
「うるせえな、早く乗れって、自分の足見てる?」
「え?」
殴られた部分を見ると、紫色に変わっていた。骨折した弟の腕の色がどんどん変わっていったあの日のことを思い出して、やっぱり骨まで逝ったのかもしれないと確信した。
黙って春希におんぶされる。シンプルに目立つ。廊下では、「富田に殴られたってマジ!?」って違う男子に声をかけられる。春希も私も何も言わなかった。最悪の1日だった。
その後私も早退して病院に行き、骨折と酷い痣で終わった。しばらくは松葉杖だった。
宇野くんの耳は大丈夫だった。本人の精神状態と相まってあの時は上手く話せなくなっていて混乱していたが、すぐに戻ったそうだ。
春希は割とすぐ気持ちを入れ替えて、3日も経たずに秋也に話しかけていた。
ふゆちゃんは松葉杖の私を最大限にサポートしてくれた……。
富田は、停学になった。
退学者数を出したくないと言う学校の方針で退学にはならなかった。私も少しだけ、胸を撫で下ろした。
秋也は、春希に怒られたことを卒業まで気にしていた。言われたことや、何もかも……何より、春希に怒られたこと、つまり春希に嫌われたかもしれないことが心底怖かったんだろう。暫くは気にしすぎじゃないかってくらいに大人しかった。
春希のあの悲しげな顔を見て以来、私は率先して子供臭い秋也を注意するようになった。ポジションを理解した春希は、基本的には怒らなくなった。それでよかった、秋也にも春希にも……。
そんなことがあったからこそ、唐揚げ臭いこの部屋でも私は胸を撫で下ろしていた。
「ねぇ〜、実はさ、春希が1回だけ秋也に怒った宇野くんの話あったじゃん」
「うっわ〜懐かし……あれな、1番被害でかかったの夏莉なやつ」
「そうそう、骨折したあれ」
「あれがどしたん」
「あの後さ〜、私宇野くんに告られたんだよね」
「っ―――――」
私がそう笑うと、ふゆちゃんはお茶を吹き出してしまった。
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