第21話
春希とふゆちゃんから頼まれたパンや自分の昼飯を両手に持って、購買部から帰ってきた時だった。
「なぁ〜秋也ぁ、あれはやりすぎだって」
「マジびっくりしたんだけど〜、どっから持ってきたんよアレ」
「すまんすまん、あんな音出ると思ってなくて!暇だったし、先生のバインダーの上にあったからつい……」
「でも俺らもめっちゃ退屈してたからさぁ、助かったわ」
「宇野はなんかやばそーだったけど、俺ら的には満点的な?」
秋也が別の不良グループに囲まれて、チヤホヤされていた。ふゆちゃんは窓の外を見つめて、何も無かったように過ごしていた。
いい加減にしなよ、と言いたいところだったが、私は全てを飲み込んで…………ふゆちゃんの机の前に座った。
「はい、焼きそばパンと牛乳」
「ありがと……」
「ねぇ、さっきからあの調子なの?」
そう聞くと、こくんと頷くふゆちゃん。思わずため息が出てしまう。
「てか春希は?」
「トイレだと思う」
「もぉ、早くしないとモンストする時間なくなっちゃうよ〜〜」
ふゆちゃんとそんな会話をしている最中も、秋也の方はずっと盛り上がっている。そしてそれはどんどん大きくなっていって、男子が「宇野は大袈裟」だなんていうところまできた。
「あのさぁ!」
痺れを切らして言葉が出てしまった瞬間、春希が私の肩を強く押して、座らせた。
「夏莉は何もしなくていい」
「春希どういうこと―――」
そのまま私の横を通り過ぎて、不良グループの中から秋也の腕を掴んだ春希は、教室から出ていってしまった。
そんな春希の様子を見て、不良グループは私の前に立ちはだかっては、「せっかく面白かったのに、夏莉達せいでシラケるじゃん」なんて吐き捨ててった。
「どいつもこいつもやってる事が高2じゃないんだけど……騒ぎたいなら動物園にでも行けば?
「あ!?」
「ははっ、その『あ』でみんなビビると思ってる?いい加減大人になりなよ」
「てめぇ!!」
不良グループの筆頭――富田は、腕を振り上げた。ぶん殴られると思った。いや、正直言い合いするつもりはなかった……ただ、意見だけは言わないと気が済まない性格だった。
「殴んないの?」
「っ……」
「殴りたいなら殴ればいいのに、しょうもな」
相手にしてる暇もない、富田を避けて春希達を追いかけようとした時、富田から綺麗なグーパンチが飛び出してきた。
反射で避けようとして食らったのは、左太ももだった。鈍い激痛に、思わずしゃがみこんでしまう。
「ねぇちょっと今!富田、夏莉ちゃんのこと殴ったよね!?」
汗が滴る。なんで今日はこんな大変なことばっか起こるんだ――って、私が富田に噛み付いたからか。声も発せずにいれば、富田はそのまま教室から逃げていった。
「汗やっば……大丈夫!?」
「夏莉ちゃん!!先生呼んでくる!!」
「美咲、夏莉ちゃんの手当して」
「夏莉!なんであんなの相手にしちゃうのよ!」
教室の端から駆けつけてくれる女子を脇目に、私は立ち上がってしまった。
「大丈夫……それより行かないといけないから」
「大丈夫じゃないでしょ!?」
「ほんとに、大丈夫」
汗は無数に滴る。いや、これ骨まで行ったかな……とか、そんなことばっか浮かぶけど、私は春希を追わなきゃいけない。秋也と春希を2人きりにしたくない、したくない。絶対に。
「ねえ……ほんとに行くの?」
「うん、行く」
「俺も教室に残るから、夏莉も行かないで――」
「ふゆちゃん、そのお願いだけは聞けないの。行かなきゃいけないの、お願い」
片足を引き摺って春希たちが出ていった方向に向かう。昼休みで賑わう廊下はカオスそのものだ。それでも人を掻き分けて、私は屋上への階段に向かわなきゃいけない。
「夏莉おつー!って、足どしたん!?」
「富田に殴られたわー!」
「はぁああ!?」
「ちょっと今急いでんだ!」
いやいや、なんて言い続ける友達をスルーして階段に来た。だけれど、上がりづらい。
「くそ……」
「…ちょっと触るよ」
ふゆちゃんはそういうと私を軽々と持ち上げて、あっという間に秋也と春希の近くに運んでくれた。階段の上では、2人が……いや、正確には春希が怒鳴る声だけが聞こえる。
「ふゆちゃん……」
目で合図して再び抱えてもらい踊り場に向かうと、胸ぐらを捕まれ壁に押し当てられた秋也がそこにはいた―――泣いていた。
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