第16話


『ねえふゆちゃん、ちょっといい?』


勇気を出してそう送ると、意外なことにすぐ既読がついた。そんな小さなことにも胸を撫で下ろし、続けざまに文字を打つ。


『ふゆちゃんが返信くれなくなった理由って、私や他の2人がなにかしてしまったから?』


すると、すぐ返事が来た。


『違う。それはない。』


即答……息を飲んで、また指を動かす。


『返信が来なくなって、高校時代楽しかったのは私だけなのかなってずっと思ってた。嫌な思いさせてたらごめん』


『それもない。俺も楽しかった、これ以上何も望まないって思うくらいに』


―――これ以上にも望まないほど。

その気持ちは、私が高校3年間感じていたものと同じだった。

じゃあどうして――そう問いたくなる気持ちを抑えて、『嬉しい、私もおなじ気持ちだったよ。明日楽しみだね』と送ってスマホを閉じた。

耳を塞ぎたくなった。自分の声がうるさかった、これでもかと言うほどにうるさくて、頭がおかしくなりそうだった。

これで向き合ったと言っていいのかはわからない。ただ、ただ……うるさかった。


そしてまたぼんやりと空虚な天井を見上げていれば、朝になる。不思議な世界だ。


朝8時。

寝起きでぼんやりしたままLINEを見返す。上手く見えなくて、片目をつぶったり目を擦ってみる。それでも見えなくて、結局メガネを探した。

今日は12時から待ち合わせらしい。

帰る時間は何時になるかわからないし、集合したあとどこにいくかもよくわかっていない。

片道の時間とメイクの時間を考えると、あまりぼんやりはしていられない。なのにどうして、こんなにも動く気にならないんだろう。

ふゆちゃんに会いにいくと言うのに。

私の目的は、ふゆちゃんをここに戻してくることだったのかもしれない。

ため息をついて、やっぱ今日は私行けない、なんて送ろうかと思った瞬間だった。


『今日外雨だし、俺ん家で会わない?んでさ、今日家族誰もいないんだよ。みんな泊まっていかね?』


春希のメッセージだった。

急いでカーテンを開けると、たしかに大粒の雨が降っていた。

うーん、なんて唸っていると、ふゆちゃんも秋也もいいよなんてスタンプを送っている。


『夏莉もいいっしょ?12時に俺ん家で、ヨロシク』

『昼飯どーすんの?』

『なんか持ってきて俺ん家で食うか、道中のマック買うか』

『12時って朝マックやってる?』

『は?12時はもう昼だろ?』


拒否する間もなく春希と秋也で進んでいく会話を、私とふゆちゃんは眺めていくだけだった。

「きゃはは、おいー!」なんて声が聞こえ外に目をやると、こんな大雨なのに小学生四人組が楽しそうに歩いている。ビニール傘と、小さい色つきの傘。ゆっくりと進んでいく彼らを、私はどんな顔で見ているのだろう。

私たちにも、あんな頃は本当にあったのだろうか。彼らは誰一人欠けずに大人になれるのだろうか。


――準備しなきゃ。

お泊まりなら、尚更早く準備しないと。

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