第17話
約束の20分前に春希の家の前についてしまい、どうすればいいかと肩を落とす。
この綺麗な新築戸建に遊びに来るのは、3回目になるだろうか……。
高校時代に遊びに来た時のこと。
綺麗好きの春希は、私たちを部屋にあげるなり高級掃除機を取り出し、武器のように持ったかと思えば、そのままものすごい勢いで掃除をしだした。「パックご飯あっためてもいい〜?」そう聞いた私の元に駆けつけ、そのまま掃除機で足を吸おうとしていた。
「私ゴミじゃないから〜!!!コラ!貸してみ!!」春希から強引に奪った掃除機を持って、私は春希の顔の前に吸引口を向けようとした。「ちょ!!さすがに!!!!」そう言って逃げる春希を「は〜る〜き〜!!!」と叫んで追っかけ回して、結局秋也が勝手に着けたルンバが春希の足を小突いたところでみんなが止まった。私と春希のターゲットは秋也に変わって、全力でくすぐりにいった。
そんな光景を笑いながら見ているふゆちゃんは、さりげなくパックご飯を電子レンジで温めてくれて、みんなのご飯を綺麗に配膳してくれていた。
「ふゆちゃんだぁいすき」
私がそう笑えば、ふゆちゃんは冗談じみた作り笑いをするのだ。
「最後に食べ終わったやつが全部片付けろよ〜〜」と、早食いの春希はカレーを書き込む。はぁ!?なんていいながら、同じように書き込む秋也、そして静かにペースを乱さない私とふゆちゃん。
結局―――秋也がペースおかしくしておなかいっぱいになっちゃって、全部片付けてたっけ。
少しだけふふ、っと笑って、息を吐いた後にピンポンを押そうとした瞬間だった。
ガチャ、と扉が空いて、私の顔に目掛けて開いてくる。まずい、危ない、当たる。
「ぅ―――」
「うわぁ!?!?!?」
寸止めだった。
「夏莉ぃ!?着いてんなら言えよ」
「い、今着いたんだよ……まじ危なかった」
「ほんとだよ……ほら、入って入って」
そう言って前を向いて家に入ろうとした瞬間、靴が多いことに気がついた。
「あれ?ふゆちゃんは……」
「リビングにいるよ」
「早くない!?だってまだ10分前―――」
靴を脱ごうと人差し指を踵にかけていた。
壁に手をついていた。
下から上にあげた顔と同時に、私の髪が揺れる音がした。
視界がスローに見える。もはや時が止まっているような、そんな衝撃。
……目の前に、ふゆちゃんがいた。
「お?夏莉?何止まってんだよ」
「ふゆちゃん……」
「ん?」
春希は振り向いて、階段側を見る。
「ふゆちゃんリビングにいたんじゃなかったのかよ!びっくりするな〜〜〜」
ふゆちゃん、ふゆちゃんがいる。
当たり前だ、約束したんだから。
わかってた、わかってたのにそれでも衝撃が抜けない。ボサボサになった髪の毛は、何かがあったことを教えてくれる。輝いてた目は、死んでいる。
それでも、今ここにいてくれている。
「ふゆちゃん……」
「夏莉!ぼーっとしてないで靴脱げよ」
「あ……うん」
踵から急いで脱いで、ふゆちゃんの靴の隣に置いた。
「しゅ、秋也は……」
「まだ来てないよ。ふゆちゃんと夏莉は約束15分以上前に来るけどさ、秋也は約束の15分以上後に来るから」
「は、はは……」
スマホが鳴り、LINEを開く。
秋也との個チャだった。
「あー……秋也、遅れてくるって」
「ほら言わんこっちゃない。って、洗面所で手洗ってきて」
「あ、う、うん」
2人が階段を上がってリビングに行く音を聴きながら、私は小走りで洗面所に向かった。
―――助かった。
1年ぶりに見たその顔に涙してしまいそうで、動揺してしまいそうで……どうにかなるかと思ってしまった。
鏡に映った私の顔は不安げだった。
「なんでだよぅ……」
小さく呟きながら、いつもより丁寧に手を洗う。いつもより丁寧に手を拭く。
丁寧にしたとて、洗面所に一生いられる訳では無い。そもそも4人で遊ぶために来たのに、何を怖がっているのか。
自分でもわからない漠然とした不安が心にあった。
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