第11話

――背中を押されたとはいえ、ヒントとなるものは何も浮かばない。

Googleマップでふゆちゃんの最寄りを見て、「ああ、こんな栄えてる街なんだ」なんて思うことしかない。


「あーー…………」


そう声を上げれば、通話相手秋也はびっくりした後に、「何も浮かばないの?」なんて聞いてくる。


「浮かばない……ちょっと一から整理しようかな」

『うん、整理した方がいいと思う』

「まず、ふゆちゃんの家に行ったことあるのは秋也、あんただけ……だよね?」

『うん、だと思う。他の人にも聞いたけどダメだった。』

「そりゃそうだよな…ふゆちゃんが私たち以外と話してるとこなんて見たことないし。」


……逆に、秋也はなんでふゆちゃんの家に1人で遊びに行ったんだっけ?

確か、私は副反応で高熱が出てて家から出られなかった……春希は?

春希は本当にふゆちゃんの家に行ったことないのだろうか?

いや、嘘をつくメリットもないしな。


「……で、ふゆちゃんの家は隣町にあって、駅から歩いて20分くらいだったんだっけ?」

『そう。そして、学校からは自転車で20分くらいらしい…』

「となると、駅より北東に、20分圏内くらいの位置……そして今持っているヒントはこれだけ、だもんね。」

『なんかうろ覚えなんだけどさ、路地みたいな細い道を歩いたんだよ……こんなの何の役にも立たないだろうけど』

「ううん、そういうのの積み重ねが思い出すのに繋がるでしょ」


駅から北東寄り、20分くらいの距離にある住宅街をズームする。

繋がるでしょ、なんて強気に言ったものの、路地なんていくらでもある……これでは見つけられそうもない。

もう一度溜息をつくと、暗闇の中に沈んでいくような感覚がした――弱音を吐きたくなった。それを一度飲み込んで、もう一度、ふーっと息を吐いた。


「前にふゆちゃん、四丁目とか行ってなかったっけ。ほら、学校の住所九丁目くらいでさ、いくつまであんの!?みたいな話になった時、最大のは北海道で四十二丁目まであるらしいよ…って。それで、みんなで何丁目に住んでんの的な話になって……」

『あー俺、その時三丁目って言ったんだけど、家帰ってから間違ってたことに気づいたんだよね。懐かしい』

「いやそうじゃなくて、ふゆちゃん、四丁目って言ってたよね」

『どうだったかな……』

「うーーん……」


最寄りから徒歩20分、そして学校から自転車で20分の辺りには、四丁目という文字はない。


「記憶違いか……」


そう呟いた瞬間だった。


『教会みたいなところは?』

「教会?」

『ふゆちゃんの家の近くって、教会みたいなん、なかった?本当に近くに……』

「あ、鐘の音………」


鐘の音。

ふゆちゃんと電話をしていると、特定の時刻に大きな音で鐘の音が入っていた。

あまりにも唐突な音に驚き、笑いあってしまうほどに……。

そしてそれは毎日鳴っていて―――どの宗教かはわからないけれど、凄く印象に残っていた。


「なんで忘れてたんだろう!?!?」

『教会かどうかはわからないけど、さっき言ってた20分の範囲にあるか調べて』

「はいよ――」


すぐあった。しかし、出てくるのは3件。


「3つもある……」

『そこまで絞れたら行けると思う、ストリートビューで散策しよう。』

「そういえば……前、ふゆちゃんのママがお迎えに来た日、車の色めっちゃ目立つ青だったよね。しかもかっこいいやつ。」

『それだよ!!!!!青い車、青いのが止まってる家を探そう、教会付近で!!』

「わかった!!」


全ての記憶のピースが重なった。

4人というパズルの最後のひとつが手のひらにある感覚がした。


「私は行った事ないから家の外観とか知らないけど…これじゃないかな。真っ青な車、右端に写ってるのって、ふゆちゃんの真っ赤な自転車……だよね?」

『ここだ……ここ、ここだよ!!!!!』

「本当に間違いない?」

『うん、ここだよ。綺麗な家だったの覚えてる……間違いない。』

「よっし……これでふゆちゃんに会いに行けるね、確実に。」

『じゃ、俺部活行くから切るわ!!』

「はいよ、ありがとうね〜」


ボロロン、と電話が切れる。

パソコンの画面に映し出されたふゆちゃんの家を見て、喜べない自分もいた。

こんなの、本当な無理矢理な特定じゃないか…こんなことして、見つけて、それでいいのか。


達成感よりも自己嫌悪だった。

過去に囚われて、勢いだけで特定までして、最悪だ。本当に、最悪だ。


「うう……」


布団に入って毛布にくるまっても、毛布はわたしのことを暖めてはくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る