第10話

「少し前にふゆちゃんが夢に出てきたんだ」

「どんな夢?」

「えーと……」


高1から5年越しに告白されて、怒られる夢。なんて事はいえなかった。


「お、お前なんかと連絡取りたくない…って言われる夢」

「なんだそりゃ!ふゆちゃんが絶対言わない言葉じゃん」


春希はブラックコーヒーにミルクとガムシロップを注ぎながら笑った。

秋也は……話を聞いてすら無さそうだ。ストローを咥えたまま、スマホゲーをしている。


「だよね、でもあまりにも鮮明すぎてビビっちゃって!」

「そりゃ怖いわなぁ。状況も状況だし。」

「私はさ、ふゆちゃんのこと大好きだけど……ふゆちゃんは私の事、うるさいヤツとか、そういう風に思ってるかもしれないから。」

「あー……ないない。ないよ、ないと思う。見てりゃわかる、ないよ」

「ない……ならいいんだけどね」


時刻は18時前。突然人が増えてきて、店内は割とガヤガヤしていた。


「じゃ、帰るか」

「え!俺まだ飲み切ってないよ!?」

「秋也さぁ、スマホゲーばっかやってるから飲みきれないんでしょ!?」

「また夏莉に説教されてるじゃん」

「うるさいなっ!もー、今一気飲みするから待って」

「はぁ……高校の頃から変わんないな」

「夏莉もね」

「春希だって!」


退店する時すら笑顔が絶えないのが私たち。

ちぎられた四葉のクローバーでも、逞しく前に進むことはできるんだと思ってしまった。

絶対にふゆちゃんを見つけると心に決めたものの、戻してくることはまるで、1枚ちぎられた四葉のクローバーに接着剤を使って1枚嵌め直すような、そういう感覚になるのではないかと、憂鬱になる。

でも、下ばかり向いていては先に進めないのも理解している。このジレンマ、矛盾。


「じゃあまた会おう、次は4人で」


そう言って改札の人混みの奥に消えていった春希、秋也。

いつもならここで、バス組のふゆちゃんと私だけ残っていたはずだった。

駅前の喧騒、人混み。未練たらたらで歩く女は、世の中の人にどう見えているのだろうか。

そんなこと考えたって、仕方ないのに。


バスの車窓から高校生4人組を見ると、自分たちを照らし合わせてしまう。

男女、性別とか関係無かった。

「一緒にいて楽しいから一緒にいる」それが私たち。恋愛感情も生まれない、友情よりも圧倒的な絆。女子1人と男子3人でも、私たちは違和感なく過ごしていた。

そしてそれは、学校のみんなも理解してくれていた。私たちはそういう次元じゃなくて、ただ笑い合いたいだけなんだって……。


ふゆちゃんが真っ赤な自転車に乗って走り出した時、私たちはふゆちゃんの自転車の後ろを掴んで、そしてまた後ろのリュックを掴んで、4人で猛ダッシュして公園まで走った。

公園に寄ったのも「野球しようぜ」っていうくだらない理由で、私は自分の打った球が跳ね返って鼻に当たって泣いてた。

めちゃくちゃ暑い日だったと思う。その日のテーマソングはGReeeeNのキセキ。

汗かいたところでみんなの水が切れて、ジャン負けでふゆちゃんのチャリ使ってお水を買いに行った。真夏の中、自販機出たてのキンキンに冷えた水がたまらなく美味しかった。みんな汗だくだったと思う、水も、汗も、何もかも眩しかったよ。本当に。

切なくて、泣けてくるんだ。


春希は遠くに就職、秋也はこれから就活。

だからもしふゆちゃんが戻ってきても、もうあの頃に戻れることは無いのかもしれない。

でも私だけは、私だけはあの頃のまま笑っていたいな。いつか、必死に隠したクマもさらけだして笑えるくらいになりたい。

ああ、早く3人に会いたい。あの暖かい瞬間に。


そう思えば、自然と涙が流れた。

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