第二章
第8話
その日から私は、ふゆちゃんを見つけるために――もう一度会うために、動き出した。
と言っても、住所も電話番号も知らない。
顔と名前しか知らない。
鍵になるのは、秋也の記憶だった。
『つっても俺…ふゆちゃんの家行ったの、2年くらい前だよ』
「やっぱ思い出せない?」
『ちょっときついな…』
「そっか」
『ふゆちゃんの最寄り駅ってさ、確か隣町だったじゃん。張り込んでみる?』
「いや〜…そんな都合よく会えるのかな」
『宝くじくらいの確率かな?』
「無理だよそれは」
秋也と通話しながら、ノートパソコンを眺める日々。
「そういや春希は…忙しいか」
『どうだろ?就活終わったのかな。聞いてみたら?』
「うん……けど、今はそれより、ふゆちゃんかな」
『ふゆちゃんのこと大好きなんだね』
「そりゃあね。」
意味もなく高校の頃の課題提出サービスのサイトを見てみる。クラスメイトの名簿欄に、ふゆちゃんの名前。でもそれ以上の情報はない。提出した課題の一覧には、私が将来の夢について語った作文のような…小論文のような、まあなんとも言えないようなものが表示されていた。
『じゃ、俺大学行くから』
「おう、頑張れ〜」
通話が切れる音がして、その課題を開く。
【10年後の自分へ】
という書き出しから始まったそれは、まるで呪いのようで、すぐさま目を逸らしてしまった。自分から押し付けられる理想の自分を、私は直視できなかった。
今の自分は、この上なく情けない。
過去に囚われ、前を向けないでいる気がする。楽しかった記憶が、キラキラとしたあの毎日が忘れられない……それを原動力に、今も動いている。
でも、ふゆちゃんを探すという行動は間違っていないとも思うし、ある意味前を向けているのかもしれない。しかしそれは見る人によって評価が変わる…と思う。
「なんもしらないくせに、ばーか」
自分の書いた文章に言い放ち、ブラウザを閉じた。
そしてまた、空を掴む。
ふゆちゃんがいたあの日々に、なにかヒントがないか必死に思い出す。
思い出しつつ、ふゆちゃんにメッセージを送っていた。いくつも並ぶ長文のメッセージは、壁打ちしたボールの量のようだった。返信は一生来ない、独りよがりのメッセージ。既読もつかないし、つくと思っていない。
内容も、滅茶苦茶だ。
『この写真覚えてる?この日楽しかったよね!』だとか、
『私ふゆちゃんのこと本当に大好きなんだよ、だからさ、帰ってきて』だとか、
思い出と懇願を混ぜた地獄のなにかだった。
バカバカしいのもわかっているが、そうするしかなかった。
嫌われているのなら私だって探したりはしない。ただ、彼は私たちの誰一人もブロックせずに失踪した。ゲームのフレンドも切られていない。元々更新はされていなかったが、SNSもそのままだった。
『嫌いになったならブロックして、もう関わらないから』
最初に送ったのはその文章だった。
でも何度確認しても、ブロックはされず、フレンドも切られない。その後も、そういった文言は何度も送っていた。嫌われているかもしれないという恐怖を、嫌なことをしているかもしれないという自覚を打ち消すために。
「嫌だったらブロックするだろう」という免罪符のためだけに―――。
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