第6話
それからも、私はふゆちゃんに連絡を取りつづけた。時には謝り、時には本当に大切な友人なんだと、訴えかけた。何をしても、既読になることはなかった。
ゲーム機も[1年前にオンライン]と残酷な言葉を並べてくる。何もかも繋がらない。本当に……何もかも。
「いつからいなかったんだろう」
天井を見ながら、空に問いかける。
最後に連絡を取った日からは1年以上が経つが、実際にいなくなってしまったのは何月なのか。そんなこと知ったって、何の手がかりにもならない。
でも、ふゆちゃんはいつも、どこかいなくなってしまいそうな距離感で笑っていた。
「情けな…………」
ふゆちゃんとの思い出は、私より春希の方があると思う。もともと秋也と私、春希とふゆちゃんだったもんだから、1:1になった時に噛み合わない組み合わせもある。だから連れ戻すなら、私なんかより春希の方が適任なんだ。でも……春希のあの雰囲気から察するに、「戻ってきてもらおう」なんて考えてないようにも思える。
高校時代のフォルダを開けば、ふゆちゃんと撮ってる写真ばかりだった。
春希と秋也は写真が嫌いだけれど、ふゆちゃんだけは唯一私と写真を撮ってくれた。
みんなでピクニックをした公園で。
学校の鏡の前で。
夕焼けの帰り道。
焼肉を食べた日。
2人での写真は、ほかの2人よりも多かった。
話したがりの私と、聞き上手のふゆちゃんは最高の相性と言っても過言ではなかった。私の話でゲラゲラ笑ってくれるのも、何もかも……大好きだった。ほかの2人に抱く感情よりももっと深くて大きな感情を……ふゆちゃんには抱いていた。
「はあぁ……」
「ちょっとナツ〜?暇してんなら、年末の音楽番組全部録画予約しといて〜〜」
「……はーい。」
ふゆちゃんのLINEがうつったスマホを、布団に投げ捨てた。伸びをして部屋から出て、家族から頼まれた作業をする。
こうやって布団から起き上がって、小さなことでもできるようになったことは大きな成果だった。高校時代の動画や写真には凄く感謝しなきゃいけない。でもその反面、ふゆちゃんのことで憂鬱になることも増えた。
自分を責める時もあるし、犯人探しのように過去の記憶を掘り出して尋問する時もある。
「あとさー、正月飾り!」
「わかったわかった…準備すりゃいいんでしょ〜」
「頼んだよ〜」
過ぎていく日常の中で、ふゆちゃんを何度も思い出す。それはいなくなったからなんだと思う。いなくなってから気づく大切さ、というのだろうか。それとも、逃げ出したペットを追いかけるような気持ちなのだろうか。
自分にもよくわからなかったし、わかりたいとも思わなかった。
ふゆちゃんが私の事を――――。
私は、ふゆちゃんのことを。
そうして大晦日当日になっても、ふゆちゃんからの連絡はなかった。
「今年もありがとね」
と、4人のグループに3人が送り合う光景は異様だった。例えばふゆちゃんが生きてて、意図的に連絡を絶っていたとして。
年末に、連絡を絶ちたいような相手3人が楽しそうにグループでチャットしていたら……どんな気持ちなんだろうか。
それは憎しみなのだろうか、悔しさなのだろうか。
「そば食べる時くらいは明るい顔しなよ〜」
「……うん、ごめん」
すする蕎麦は、今日も美味しい。
きっとみんなも、年越しそばを食べている。
ふゆちゃんを置いて、年を越す準備が整っていく。私たち3人だけで、整っていくんだ。
「お友達のこと考えてるの?」
「うん」
「その…いなくなったっていう?」
「そう……何してるかなって。」
「……あんまりさ、気にしなくてもいいんじゃない?きっとふらっと帰ってくるよ」
「それ、春希も…消えてない方の子も、言ってた」
「みんなそう思ってるんだよ、だからそんなに思い詰めなくても…」
「帰ってこないよ。ふらっと自分の力で帰ってくるなんて、絶対にないよ。絶対に。」
「どうしてそう思うの?」
「3年、一緒にいたんだからわかるよ。」
「……そもそも、4人じゃなきゃいけないの?」
「何言ってんの?」
思わず箸を机に叩きつけてしまった。
「年末に暗い顔してまで、4人にこだわる理由って……あるの?」
「あるよ、あるんだよ、あるの。」
椅子の上で下を俯いて、丸くなってしまう。
あるはずなんだ、4人でいなきゃいけない理由が。
どこかに絶対、絶対あるの。
「あるよ……四葉から1枚ちぎった三葉のクローバーは、三葉のクローバーとは違うでしょう」
自分に言い聞かせるように、そう言って前を向いた。
「ふらっと帰ってくることなんてないし、私が4人を諦めることは絶対ないの」
今は、そう言うしかなかった。
「そっか……ごめんね」
それぞれの日が終わっていく。
1年が、ふゆちゃんのいない1年が終わっていく。ふゆちゃんを置いたままに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます