第4話
がむしゃらに生き抜いてきた私は、人生という長い道の小さな小石に躓き、思いっきり転んだことで、どれだけ自分に負荷をかけていたのか気がついた。
―――突然、起き上がれなくなった。
それは文字通り、布団から起き上がることができなくなってしまった。鳴り止まないアラームの音を止める気力もなく、脳内にひたすら反響していた。ただ、朝日が差す部屋の、天井の木目を眺めるしかできなかった。
別に何かがあったわけではない。怪我をしたわけでもない。ただ、動く事ができなかった。その日から、私は生きた死体になった。
忙しさ故に友人関係を疎かにしていた為、大学の友人はほとんどいないも同然だった。
春希、秋也、ふゆちゃんに限らず、他の高校の友人とも連絡を怠っていた為、誰とも話せなくなってしまった。
週16コマ……そしてその課題をこなすのに必死だった。必死すぎて、何も見えなくて、気付いたら独りになっていたんだ。
最初は、笑いしか出てこなかった。それこそ、自分に向けた嘲笑。
――なにこの状況?あんなに頑張ってきたのに?GPAだって3以上キープしようと思って頑張って……休んでる暇もないのに?
次に、焦りで電話した高校時代の友人――ミキちゃんに、「頑張ってるのはわかってるけどさぁ、ずっと思ってたんだよね。頑張った先で何がしたいの?何が目標なの?」と言われ、授業始まるからと電話を切られた。
その瞬間に自分が地獄に落ちていく感覚が……あの落下感が襲ってくる。
目標なんてなかった。
強いて言うなら、何事も完璧に済ませたかった、くらいしか浮かばない。
毎日死ぬ気で頑張ってる事全てに意味なんてなくて、将来に直結するようなこともなかった。
そうして大学にも行けなくなり、私はあの忙しさ故に得られたものなど何一つないのだと悟った。悔しくて、苦しくて……その日から死ぬことしか考えていない。
大学名やGPAは、ただの肩書きにしかならず、そんな肩書きのためにがむしゃらに走り、何もかも失う。そして私は、何も得られないまま終わっていく。
食事すらまともに摂ることはできず、親を心配させたくなくて無理矢理食べた白米は無味無臭だった。
目が覚める度にこの現実に嫌気がさし、絶望。馬鹿馬鹿しい遺書を書いて、アルバムを整理しているときだった。
『ストライクじゃね〜!?ナイス!!!!さすが春希だわ!!』
『だろ?俺最強だから』
『…………って、ふゆちゃんサラッとストライク取ってるし』
『ウケる』
楽しそうに過ごす私たちが、そこで生きていた。確かに、生きていた。
屍のように、腐った身体を引き摺る私が、画面の中では跳ねて、輝き、笑っていたんだ。
その時、過去に戻りたい気持ちよりも、「こんな幸せな思い出があるなら、この先も頑張っていきていけるかもしれない」なんて思ってしまった。それはまるで砂漠の中のオアシスであり、地獄に垂れてきた糸でもあった。
大学に行けなくなってから3ヶ月、蝉の声がうるさかった。起き上がれなかった私は、少しずつ日常を取り戻そうと過ごしている。
薬を飲み、家事をする。そんな繰り返しの日々だが、ご飯はちゃんと味もする。
悲しくなる度に、4人での動画を見るようにしてる。あの3人の存在は、卒業後も私を支えてくれる最高の存在だった。
そんな存在を糧に、復学への道を1歩1歩強く歩んできた。
そして更に3ヶ月後の、2023年10月。
私は4人のグループにメッセージを送ることにした。
『全然会えなくて、連絡も取れてなくてごめん。実は今大学休学してるんだ。みんなの都合の良い時にまた会いたいな』
送った瞬間に既読が2個つく。即座に反応してきたのは秋也だった。
『久しぶりじゃん!!また会おうよ!!』
次に春希も、きっと言いたいことは山ほどあるだろうに、全てを飲み飲んで返信をくれた。
『元気にしてる?大丈夫そうか?絶対会おう、来週末とかどうよ』
『また焼肉食べたいね』
『夏莉がいいなら焼肉行くか』
『私も焼肉がいいから、行こう!』
『あとはふゆちゃんだな』
あっという間に戻ったグループの活気は、勢いで焼肉屋を予約するまであった。
しかし、どんなにLINEをしても、既読が2から3に増えることはなかった。
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