第3話

そんな私を見て、担任がとんでもない提案をしてくれた。

「桜木大学が第一志望なら、評定もあるし推薦出願行けるよ。一般の前に賭けで、やってみない?全力で応援するからさ」

そう言ってプリントアウトされた、推薦の募集要項。確かに、チャンスは多い方が良い。そう思った私は、それを受け取り、出願に必要な書類をお願いした。

その帰りに、初めて行こうとしている大学の名前を出した。


「桜木!?」

「うん、行こうと思ってて」

「本気で言ってんの……?」

春希の声で、空気がピリついたのが一瞬でわかった。

「賭けになるけど、やるからにはとことん上を目指したいから」

「意外と野心家だったんだ?」

「えへ、意外とね」

「ちょっと俺KYかもしれないんだけど…サクラギってなに?」

「イイとこの大学だよ」


ふゆちゃんは何も言わず、終始微笑んでくれていたが、春希はそうじゃなかった。

専門の中でも難しい部類の学校に入ろうとしていた春希は、どこか私をライバル視していた。そして、私と春希の受験が終わるまで、春希のよそよそしい態度は続いた。

12月、少し早いが私たちの受験は完全に終わった。秋也も近くの大学に願書を出し、詰め込みの日々だった。


「ふゆちゃーん、専門決まった?」

「……まだ」

「なんか、やりたいこととかある?」

「なんもない」


思えばこの頃から、ふゆちゃんはだった。いつも遠くを眺めている感じで、前より笑わなくなっていた。


「卒業してもさ、会おうよ」

「え?当たり前じゃん」

春希は憑き物がとれたような顔で笑ってくれた。

「ま、当たり前だよね」

秋也も、ふやけたような笑顔で笑っていた。

ふゆちゃんは、ただ微笑むだけだった。


ねぇ、ふゆちゃん。

この頃にはもう、私たちのこと、嫌いになってたのかな。



ふゆちゃんはなんとか年度内に専門を見つけて(行きたくなさそうな顔で)安堵していた。

全員の受験が終わったことを祝い、何度も焼肉食べ放題に行った。トラブルが起こりそうな所には行きたくないよね、なんて言って、ゲームセンターには行かなくなった。カラオケは体力が低下しているからかみんなしんどくて、すぐやめちゃった。公園でゆっくり歩いて、残りの時間を踏み締めていた。

そして卒業したその日も、一緒に。

何枚も写真を撮った。これが最後だなんて思ってないのに、また会えるのに、どこか寂しくて何枚も何枚も……特にふゆちゃんの写真を、沢山撮った。帰りたくなかった、泣きそうだった。みんなのことが大好きだった。

卒業しても集まろうって、そう言い出したのは私だった。



そして、一番最初に行かなくなったのも私だった。


忙しくて仕方がなかった。

みんなに会うとか、遊ぶとか、そんな時間を捻出する余裕なんて1ミリもなかった。

大学は人生の夏休み、なんてよく言ったものだ。

本当に忙しかった……死にたいくらいに。

そんな日々で送られてくる、招集のLINEは、みんなには余裕があるような気がしてきて勝手にムカついていた。


「……久しぶり」


帰り道で秋也の地元を通ったついでに、秋也とだけご飯を食べることになった。


「ねえ、最近元気?」

「ぜんっぜん元気じゃない…忙しすぎ」

「もうちょっとゆっくり食べれば?」

「時間ない、マジで。帰ったらレポート出さなきゃ」

「ダメ元で聞くけどさ……2週間後の火曜日に、春希がみんなで集まろうって。そのうちLINE来ると思うけど」

「無理。そんな時間ない。」

「飯も食えない?」

「本当に……忙しいんだよ。ごめん、明日も一限だからこれ食べ終わったら即帰る」

「そっか……」


未読が溜まっていくグループLINEを開く余裕すらなかった。


「みんな随分暇なんだね」


そんな毒を秋也の前で吐いてしまうほどに、追い詰められていた。毎日、涙を堪えて生きていた。


そうして「忙しい」と言っているうちに、秋也はバイト生活、春希は就活が始まろうとしていた。


「就活の前に、みんなで集まりたい」


そのLINEにすら、私は「忙しくて無理だ」とだけ返した。行く気満々だった秋也のLINEと、ふゆちゃんのLINEは見逃してしまった。


……私は愚かだった。

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