第2話
ただ、ちょっとした転機が訪れた時期もあった。コロナが流行り、みんなと会えなくなってしまったのだ。課題も配られず、何一つ状況が掴めない中、私たちにできることは何も無かった。学校で会い、そのまま遊びに行くという当たり前の生活が狂ってしまった。
普段家で電話することもなかったし、突然全員が遠い人間になってしまった。
ぼんやりとベランダ空を見てると、私が掴んでいたのは本当は何も無い「
その後、登校が再開するという時も手放しには喜べなかったし、実際衝撃的だった。
「ふゆちゃん……痩せた?」
「…ホント?」
元々ふくよかだったふゆちゃんは男性のLサイズくらいの普通体型になっていた。普通の痩せ方ではないのは目元のクマや、精神的に疲れきった顔を見たらわかるものだ。
……でも私は、気付かないふりをした。
気付かないふりをして、疲れ切っているみんなを……もう一度緊急事態宣言が出る前に、たくさん連れ出したかった。
この時の私は4人で地球を出たいと思ってしまう程、必死になっていた。暗くなって、落ち込んでいる社会、クラス内、そして私たちを、私たちだけでも変えたかった。
そうして、束の間のコロナ的日常を謳歌することになった。カラオケではマイクカバーとマスク着用でギャーギャー歌った。ゲームセンターではアクリル越しにみんなのプレイを見て笑っていた。みんなで飯を食べる時もアクリル越し、授業も、何もかも…………。
「ねぇ、遊園地行こうよ」
「こんな暑いのに!?」
「だってさ!ほら!ここ行ってみたかったのに今年で閉園だって……その前に行こうよ!」
「……まー、いいんじゃない…すか?」
意外とふゆちゃんが乗り気で、暑いだろとブツブツ言っていた春希は一番乗りで約束時間に到着していた。そしていちばん楽しみそうにしてた秋也が遅刻する。私たちは笑って、人混みの中入場する。3人となら、どんな時間も楽しくて楽しくて……仕方なかった。
「俺さ……4人でいるの、最高だと思うわ」
日が暮れた頃、春希が真顔で零した言葉だった。
「俺も俺も!!!!!マジでそう思う!!」
お調子者の秋也はそれに喜んで、
「……まぁ、俺もそう思うよ」
ふゆちゃんも同意する。
次はお前だと言わんばかりの目線に、笑顔が溢れてしまいそうだった。
「あったりまえじゃん!!みんな大好きだよ、本当に。」
「あー、やっぱ夏莉がいちばん重いわ」
「重いって何ー!?重いって!?」
コロナなんか吹き飛ばせるって本気で思ってたし、修学旅行だって校外学習だってすぐ行けるって。
でも、結局この状況が卒業までに収まることはなかった。
高3になるといよいよ受験色に染まってくる。
「今日遊び行かね?」
「ごめん…面接対策するから」
少し変わったのは7月過ぎてからだった。
6月までは毎日ゲラゲラ笑って、めちゃくちゃ写真撮って過ごしていた。大きい公園の中を無駄に散歩したり、ラーメン屋の餃子100円の日に食べまくって腹抱えたり、何の変哲もない毎日だった。
7月、専門の出願が始まった。専門志望の春希は一番最初に遊べなくなった。同時期、私も予備校に通い始めたりと、本当に忙しくなった。秋也とふゆちゃんは進路未定……私も春希も、2人のことを心底心配していた。当の本人達も、私たちを見る目は羨望の眼差しを超えて、「見たくないもの」になっていることに気付いていた。
―――そしてまた、気付かないふりをして3人に擦り寄った。猫みたいに、甘えるのが当たり前のように擦り寄って、1人と2人を3人にして、そして4人になって……そんなふうに過ごしていた。
クラス全体もピリつき、女子が大声で口喧嘩をしている時もあった。そんな日々も、4人が分かれないように、受験が終わったら心が笑えるように、なんとか繋ぎ止めてきた。
必死だった――――。
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