勇者と狂人達

星七

Q, 勇者パーティと狂人達の違い


 今日は勇者パーティが王国に戻ってくる日だ。

 今や、王国はお祭りムードで、正門から城までの家々が壁に明るい装飾をしている。


「はぁ………」


 かく言う俺は誰だって?

 俺はただの行商人だ。

 それも、勇者パーティの伝説を全て見てきた行商人だ。


「あいつらが帰ってくるのか……」


 俺は全てを見てきた。あぁ、本当に全てだ。

 仲間の出来る所から、魔王を倒す所まで全部見てきた。

 だから、あいつらの良い所や欠点までも知っている。


「あいつらは勇者パーティでも何でも無い。いや、言いすぎた。ただ、勇者以外の性格が終わっているのは確かなんだよなぁ……」


 彼らは出会うもの全てにと呼ばれて居るほど、実力は確かなものだ。ただ、それと同等な欠点も存在する。そう、性格だ。


「勇者パーティ(勇者一人)の凱旋でもいいから、仲間はこないでほしいかもな……」


 一人ボソボソと独り言を言っていると、正門の方から歓声が聞こえてきた。声のした方を振り向くと、そこには身知れた顔の人達がいた。


「はぁ、来やがった。」


 そう、勇者パーティだ。


「一丁前に手なんか振りやがって……」


 最前列で手を振っている者が目に入る。

 彼はダイチ、『最強』の勇者で知られる勇者パーティの顔とも言える人物だ。そして、勇者パーティで唯一の常識人だろう。


 次に目に入ったのは勇者におぶられている者だ。

 彼女はディザ、『最恐』の魔術師で知られる勇者パーティの頭脳だ。彼女は様々な迷言を残しているが、その一つが「私が恐れなしなんじゃない、みんなが恐れて近寄らないだけ。」だ。この迷言から、最恐と呼ばれる様になったとか無いとか……(諸説あり)

 

「他のメンバーはっと……」


 目を凝らして、勇者の後ろの方を覗く。


「あぁ、やっぱりいたか…」


 殺気を放っている奴と勇者よりも堂々と歩いている奴の二人が勇者の後ろの方にいた。

 異様に殺気を放っている彼女はキル、『最狂』のヒーラーで知られる勇者パーティの負を担う者だ。

 彼女はヒーラーと言う肩書きを持っているが、実際のところバーサーカーの方が似合っているレベルで戦闘狂だ。


 そして、最後に堂々と道の真ん中を歩いている奴だ。

 彼女はルイン、『最凶』の戦士で知られる勇者パーティの主戦力を担う者だ。

 彼女だけは敵に回してはいけない。何故なら、大地を割ったとか、毒の沼を吹き飛ばした等の伝説を実際にやってのけた人物なのだから。


「ちょっとあいつらに見つかる前にここから去ろう。」


 俺はそう思い、その場から去った。


 何で去ったかって?強いて言うなら、勇者以外に見つかると碌なことがないからだ。特にあの『最凶』、世間知らずにも程がある。奴から商品を強奪された事が何回あったことか。

 それに『最恐』もそうだ。あいつは天然なのかサイコパスなのかわからんが、いつも俺を実験台に魔法を撃ってくる。幸い、命は助かったが………

 まぁ、そんなこんなで俺は去る事にした。



***



 あの場から離れて、4時間が経った。

 因みに、俺はと言うと自分の道具屋(本店)で新商品を棚に並べて居た。


「これは……こっちのポーションの棚で……こっちの調味料はこの棚で……」


 ゆっくりと、そして、慎重に道具を棚に並べていく。

 これは、こうした事で、自分の店の売れ行きが上がったからそうしているだけだ。きっと、魅せる置き方というのもあるのだろう。

 まぁ、今のところ、この店には主婦、シェフ、勇者パーティしか来た事が無いのだが……


「よし、完成!みんなが見たら感動するぞ!!」


 棚に置いてあるその色鮮やかなポーション、調味料、マジックアイテムは遠目から見て、黄金比を描いているかの様に綺麗に整った。


「まぁ、店を開いて3時間半。一人も店に来て居ないんだけど……」


 ため息を吐きながら、入り口正面のカウンターに戻って椅子に座る。


「今日は勇者パーティの凱旋もあったし、来る人が減るのも当然か……」


 そう呟くと同時に、扉の前の不透明なガラスに人のシルエットが映った。そして、ガチャッと音がなり扉が開く。


「いらっしゃいませ〜」


「来たよ!本店に!」


 そんな陽気に話しかけてくるそいつは見覚えがある人物だった。と言うか、さっき見た人物だ。


「今日は何を買うんだい?勇者」


 そう、勇者であった。

 

「今ここにある商品のリストを見せてくれないか?」


「はいよ。」


「おお!また、新しい商品が増えてる!ええと何々?スピードブーストポーションに唐辛子、それに溺水耐性のお守り!?買うしか無いな!」


 勇者が自分の作った新商品で喜んでくれているのを見ると嬉しくなる。きっとこの感情は狂人共には抱かないものだろう。


「じゃあ、1300ゴールドになるよ」


「安!?良いのかそんな値段で!」


「まぁ、耐性が着くだけだし製作素材も安価な物で出来る。だから、それくらいの値段さ」


「なるほどな!じゃあ、1300ゴールド」


 そう言って、勇者は1300ゴールドを手渡してきた。


「はい、これが品物だね。持てるかい?」


「あぁ、大丈夫だ。事前に枠は開けてあるからな。」


 こちらも、商品を勇者に手渡す。そして、勇者が来た道を戻ろうとした所で違和感に気づいた。


「あ!ちょっと待ってくれ勇者さん!」


「ん?どうしたんだ?」


「魔王も倒して、平和になったと言うのに、何でそのポーションも買っていくんだい?もう、必要は無いと思われますが……」


「いや、必要だ。この国は魔物との戦争が終わったと言うのに、人との戦争をしようとしている。俺も勇者という立場上、戦場に赴くかも知れない。だから、その事前準備だ。」


「なるほど……」


 この国は醜い。そう初めて思った。

 そして、勇者のその悲しそうな顔が心に突き刺さった。


「じゃあ、俺はこれで……」


 勇者が扉の取っ手に手をかけた所で声を出す。


「勇者さま!最後に質問を、凄い狂人とただの狂人の違いとは何ですか!!?」


「何だ、その質問は?簡単じゃ無いか!それは……」


 そう言うと勇者は扉を開き、店から出て行ってしまった。


か…」


 俺はやっぱり、勇者は常識人じゃなくて、1番の狂人に考えを改め直すのであった。

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