第13話 「AIは人間を攻撃出来ないんじゃないの?」「『攻撃』ではなく、『訓練』です」「……屁理屈じゃね?」「所有者と対象者の同意あり、なので明確に区別されます。テストにでますよ」

「あっぶねえ!」

確かにドローンの動きは今までと全然違った。単純にスピードが上がっていたし、攻撃してくるってのは思った以上にうっとおしい。

しかも硬い!何発か当たってるのに落ちない


「弾当たってるだろ!?」

「これは角に弾当てれば1撃で止まりますが、角以外の耐久は高めにしてますよ」

親切なご説明ありがとうございますだぜ!


「チッ」

三匹まとまってこられると、対処が間に合わない。とにかくバラけさせて一機ずつ仕留めた方がいいな。弾を一発ずつ威嚇するように散らすように撃つ。これで分散……そのまま突っ込んできやがった!

腹にドローンがぶつかり、電流が流れる。いや痛いなこれ!


「1回死にましたね。害獣に逃げたり、威嚇なんかの挙動は期待しないでください」

「……まじでこんな動きなの?」

「かなり忠実に再現していると自負しています」

自分の身を顧みずに突っ込んでくるって、もうそれ生き物じゃないじゃん。機械じゃん。


「というかいきなりレベル上がりすぎてない?」

「出来ることを繰り返しても訓練にはなりません。「偶に出来る」を「常に出来る」に、「出来ない」を「偶に出来る」にしていくのが訓練です」

「これ出来るようになるのかあ?」

普通、1匹から初めない?


「いきなり出来るとは思ってませんが、多分出来ますよ。「兎もどき」君単体の性能はスライムよりずっと低いんですから。要は複数戦闘のコツをつかめるか、です。」

「コツねえ」

「人間の場合、戦闘能力って、ハードの性能よりもソフトの性能が重要な分野なんですよ。人間の言い方に合わせるとマインドの部分ですね。マキナさんは焦ると処理能力が落ちますから、落ち着いて対処できるようになりましょう」

「せめて電流どうにかならん?くっそ痛いんだが」

「死ぬよりマシでしょう?痛みは学習には効果的な面があります。痛いだけで後には引かないようにしてありますから」

ありがたくて涙が出る。

なるほど確かに死ぬほど痛いけど死んでない。


「次にいきましょう。はい、立ってください」

やってやるよこの野郎!


その後もデウスがいろんなパターンで動かすドローンをとにかく撃った。

3つのドローンはまとまって突っ込んだり、バラけたり突っ込んできたり、とにかく突っ込んできた。

偶に1機だけ相手したり、2機を相手取ったりした。

動きが単純なので相手が1匹は余裕。近づかれる前に終る。多少距離があれば、角を狙う余裕も出てきた。確かに慣れるとスライム以下だ。

でも数が増えると途端に厄介になる。2匹以上を相手にすると、一匹を相手しているうちにもう一方が突っ込んでくる。動きは単純だが、思ったより速い。んで、近づかれると厄介。銃を構える余裕がないし、狙いを付けないで粗くばらまくように撃っても1、2発じゃ止まらない。やっぱこの距離なら殴ったほうが速いって。


「銃の練習なんで、手や銃で殴るのは基本なしですからね」

避けた際に思わず手が出そうになったが、デウスが止めてくる。よく見てるなあ。


「分かってるよ!」

避けた瞬間に殴る代わりに銃弾を叩き込む。

1機落とすと避けた際の隙を付くように背後から残りの2機が突っ込んでくる。

嫌らしい動きだが、流石に慣れてきた。見えはしなくても、まっすぐ向かってくるのが音でわかる。ほんとにこいつら突っ込んでくるだけだな。

振り返り、目で狙いを付ける前にトリガーを引く。コースはドンピシャ。

うん。2機までならいけるな。


「ぐええ」

「今のは惜しかったですね」

本日何度目かの電気ショックを浴びて転がるアタシはふとした疑問を思いつく。

ちょっと動きが単純すぎないか?


いや、ヤラれてるのは確かなんだけどもうだいぶ慣れたというか、避けるだけなら3機相手でもいけるようなった。別に向こうが遅くなっているわけでも、アタシが速くなっているわけでもないのに避けられる。初めの内は速さと数に焦ったが、動きになれるとなんてことはない。


だってこれ動き単純だし。


「なあなあ、こいつらってもしかして真っ直ぐ突っ込んでくるだけ?流石に本物はこんな動きしないだろ?」

「かなりの再現率だと思いますけど……もしかしてマキナさんは動いてる害獣見たことありません?」

「兎の映像は見たことあるよ」

アタシが生まれる前にでかい駆除があったらしく、都市のそばには害獣はいない。だから市長さんに頼んで昔の記録を見せてもらった。

その映像では、兎は草を食べたり、耳をピンと立てて辺りを探ったり、慌てて逃げる生き物だ。見た目だけなら可愛いと思うが、人を襲うので可愛くない。そんなふうに教えてもらった。


「それはファットラビットではなく、普通の兎ですね。害獣は基本的には元になった野生動物と同じような習性なんですけど、ヒトを見つけたときの挙動が異常なんですよ」

「こっちが何人いようが襲ってくるんだろ?だから害獣って習ったし」

「そのとおりです。それでその襲ってくるっていうのはこのドローンみたいに基本的にほんとに真っ直ぐ突っ込んできます」

「まじか」

そんな生き物いるのか?


「はい、なので安心して訓練に集中してください。2匹以下は問題なそうなので、3匹以上を重点的に行いましょう。はい、立って」

もうちょい休ませてくれても良くない!?

~~~~~

「ごええ」

2匹落とせたが弾が付きて、慌ててリロードしようとしたら腹に突っ込まれた。痛い。

やはり3匹は難しい。そもそも弾が足りなくなる。


「残弾管理忘れてましたね?本番でそれやったらマジで死にますからね?はい、立って」

「これもっと弾入るようにならない?」

「出来ますけど、敵の数が増えるたびに増設しますか?隙ないリロードが出来るようになる方が建設的ですよ」

ソウデスネ。

~~~~~~

何度目かの挑戦。二機は落とした。弾は後二発。

「よっと」

目前まで迫るドローンに、手を懸けて馬跳びの要領で上を越える。


「殴ってないからセーフだろ?」

「回避挙動としてはいいですけど、攻撃手段は銃使ってくださいね」

問題はそれだ。一対一なら避けるのに集中してればなんなく避けられる。でも銃を撃とうしたり、リロードしようとすると隙ができる。

2発でなんとかならんか?あ、角に当たった。


「よし!」

「大体課題が見えてきましたね。近距離での対処と動く相手へ命中率、あとリロードの際に銃を見るクセがありますね。直していきましょう」

「他はまあそうだけど、弾は結構当ててるだろ?今も角に当てたし」

「偶々でなく、狙って当てられるようになりましょうね。あともったいない精神を発動せずに弾が余っていても状況を見てリロードしてください。角に当たってなかったら、さっきの二の舞いですよ?」

「ハイ」

よく見ていらっしゃることですわね。


「そうは言ってもだな。動いてる相手の小さな角を狙うのは難しいんだよ」

「それを簡単だと言えるようにするための訓練です」

マジ?ほんとに出来るようになるの?


昼でしっかり訓練したけど、結局、3機相手に勝てたのは2割くらいだった。

「もっとイケると思ったんだけどな~」

「今日始めてで、この結果なら上出来ですよ。現時点の限界が解ったらそこを伸ばしてくのが訓練です」

一段落したのか気づいたら声だけでなく、デウスの体も地下二階にいた。


ヘルメットを外し、床に座って昼飯を食いながら振り返りを行う。動いた後は水がうまい。

今日の栄養バーはカレー味。ベストセラー品。これ嫌いなやつはいない。個人的には一番うまい味だと思っている。外で飯食うなら基本3食これでいい。


「動きは解ってきたんだけどなあ。ちなみに点数にすると今何点くらい?」

「70点くらいですねえ」

思ったよりもいい点数だ。


「細かな優先順位や、位置の把握、近づかれたときの動きなどは悪くないので、銃の狙いやリロードなんかを正確にしていきましょう。近接用に別の攻撃手段を持つのもありかもしれません」

「ナイフとか?ありだな。銃より早そうだし」

解体用のじゃない大きめのやつを今度都市で買ってこよう。


「くぁ」

ご飯食べたからだろうか。なんか凄い眠い。6本は多かったか。朝早かったしな。


「お昼寝するなら上に戻りましょうか……マキナさん?」

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