第8話 「結局どんなものを期待していたんですか?」「なんかこうすごく珍しかったり、便利だったりする奴」「あやふやですねえ」「そういうのは金になるだろ?」「初めからお金ベースでいいんじゃないですか」

地下一階のコントロールルームに帰って来たアタシたちは都市に持ち帰る予定の収穫物をまとめていた。

「それでマキナさんはどうします?」

「どうって?」

「ここのことギルドに報告しますか?」

「それしか無いだろう?」

「それなんですけどね、ここ、ギルドに黙って、マキナさんのものにしちゃいません?」

「は?」

アタシのものって、……どういうことだ?

ここは北4番の地下だから今後は当然ギルドの管轄になる、と思う。こういうのは初めだから知らないが多分そうだ。

いくらなんでもアタシが見つけたからアタシのものということにはならないんじゃないか?


「今まで誰も見つけて居ないわけですしこれからも見つかる可能性は低いです。基地の電源入れたのでなおさらですね。つまりマキナさんが報告しなければいいだけです」

「でもなあ……」

それっていいのか?

一番最初に探索することにはこだわりがあったけど、ギルドにもずっと内緒にしますってのは考えてなかった。


「地上の設備に不満あるって言ってましたよね?ここは間違いなく地上よりは安全で、快適です」

確かに広さは十分すぎるし、電気も水もある。ちょいと道具を揃えれば余裕で寝泊まりだってできるだろう。アタシらの秘密基地ってわけか。正直魅力的だ。デウスの隠れ家はいいなって思ってたし。


「むむむ」

でもいいのかな。

別に何でもかんでもギルドに報告しなければならないわけじゃない。美味しい狩り場や食い物の取れる場所なんかはみんな内緒にしている。でも、ここの発見はそういうのとはちょっと規模が違う気がする。


「ちょっと考える」

アタシだけの秘密基地。

正直欲しい。


ここは広い。都市のアタシの部屋と比べるともう全然比較にならない。それに都市の外こんなに快適に安全に寝泊まりできる施設なんて誰も持ってないだろう。心の中で自慢できる。

ここを拠点にできれば、いちいち都市に戻ったり、警戒しながら夜をこす必要がなくなる。安全に安定して狩りができるのはハンターをやっていく上でも結構便利なんじゃないか?


そうなるとこのあたりが余り良い狩り場でないのも都合がいい。誰も来ないだろうから秘密もバレにくいだろう。


逆にギルドにここを教えたら、かなりの報酬はもらえるだろう。もしかしたら表彰とかされるかもしれない。家族にも自慢もできる。でも、ここはギルドの管轄になってアタシの手を離れる。


「悩む、悩むなあ」

「ちょっと使ってから報告しても遅くは無いと思うんですよね。報告するにしてもどうやって見つけたかとか考えないと行けないですし」

「どうやってって、デウスが見つけたんじゃん」

二人の手柄、というにはちょっと恥ずかしいくらいにデウスの手柄が大きい。どっちかだけが表彰されるならデウスのほうだろう。


「いえ、見つけたのはマキナさんということでお願いします。僕は存在が都市にバレるとめんどくさいことになりそうなのでタダのロボットということで」

そういやこいつはなんでか知らないがソドム市とは距離をおきたがるやつだった。

アタシが発見ね。


「無理だな。絶対に嘘だとバレる」

「……想定問答の台本は用意しますよ?」

「人には向き不向きがある。残念だがアタシは嘘は向いていない。いや、隠すのも嘘だけどさ。積極的につくのとはわけが違う」

バレるから嘘はつかないほうがいいって親に散々言われてきた。子供の頃からほとんどの嘘が即座に見破られている。


「そんなに嫌か?」

「人間と人間以上にAIとAIは関係性が難しいのです」

なるほど?市長さんと会いたくないのかな?


「決めた。ここはしばらくアタシらで使おう」

「いいんですか?」

いいよ。もう、決めたし。悩みはしたが、どっちにしろ嘘つくことになるならこっちの方がよい。それにいくら金や力が付いてもこんな基地を手に入れる機会は無い気がする。


「そうすると今日からここはアタシたちの基地か」

よく考えるとここら一帯が縄張りになったみたいで嬉しい。

アタシ等の縄張り。いい響きだ。まあ、アタシはアウターやZEXの奴らと違って、入って来た奴をいちいち追い出すつもりはない。心の広いやつでありたいからな。


そうすると表向きには今日は収穫なしか。施設修復した分の金は貰えるけど、スライム退治に弾使ったからそれで赤字だな。ここで見つけたものも持っていかない方が良さそうだ。


今日の収穫の目玉、というか唯一狩りで得たとも言えるスライムの皮をつまむ。

かなり頑丈で形もいろいろ変わるなかなかおもしろい奴だった。

ふむ。


「デウス、これ直せる?」

スライムは生き物ではなく機械らしい。ということは直ったりするんじゃないか?


「材料があれば出来ますけど……用途を聞いてもいいですか?」

「いや、掃除やごみ捨てに使えるんだろそれ?ここ結構広いし、あったら便利じゃないか?」

「それくらい僕がやりますけど」

「いやお前をずっとここに置くわけにもいかないだろ。家あるんだし」

「あ~、僕のボディは別に複数あるんですが、まあ地下では性能が落ちるのは確かなのでお言葉に甘えます。こいつに殺傷機能を持たせるのは元々違法改造なのでオミットしていいですよね?」

「そういうのってアリなの?使うために勝手に改造するのって」

そもそもアタシが壊したんだしな。物騒な機能は正直外して欲しいが、起きたら勝手に改造されてましたはスライムの気持ち的にどうなんだろう。


「勝手にモノ代表で語りますけど動かないモノと動くモノなら、動くほうがいいに決まってます。我々って人が使うために造られているので」

なるほどそういう考え方もあるのか。


「そっか。じゃあ頼むは」

「任せてください。もとより家庭用ですからそこそこ便利に使えると思いますよ」

「金や材料がかかるなら言ってくれ。出せる範囲で出す」

「地下の奴で間に合うんで大丈夫ですよ」

こんだけ広いと掃除も面倒だろうし、あたしらがいない間も掃除やごみ捨てをしてくれるならとても助かる。

なにより頑丈なところがアタシ的に気に入った。これなら間違って踏もうが、蹴飛ばそうがびくともしないだろう。


「運がいいですねコイツは」

アタシはいい感じの掃除道具が手に入って嬉しい。コイツはまた動けるようになって嬉しい。win-winの関係というやつだな。いつもそうでありたい。


「それよりマキナさん」

改まった態度でデウスが何やらいいたそうにしている。何さ?

「擬態していたスライムの不意打ちを人間が避けて、ましてや一人で撃退できるなんて、僕は思ってませんでした」

まじかよ。それはちょっと人間を甘くみてないか?


「僕の予想を上回るのは人間としては外れ値です。完全に遺伝子を改造された旧世界の兵士ですら、ああは出来ません」

「褒めてるんだよな?」

「非常に褒めています。マキナさんの運動能力、起きた出来事的に戦闘能力と言いましょうか、は大変優れています」

「まあ、体を動かすのは得意だな」

というより他に得意なことがないからハンターやってんだよ。

褒められているとは思うが、大げさじゃない?嬉しいというよりなんかへんな感じだ。

これぐらいはちゃんとしたハンターならたいてい出来る、と思う。


「急にどうした?」

「起きた出来事を真摯に受け止め、認識を更新します」

「ふむ?」

「マキナさんについてはちょっと取れるリスクの幅を見直します」

「つまり?」

「免許持てば銃の所持が許されるように、スライムを一人で対処できるマキナさんには他のヒトにとっては危ないことでも危なくないかもしれない、ということです。具体的には害獣退治にたいして僕がもう少し積極的に支援します」

「おお、頼むわ」

そりゃあよかった。頑張った甲斐がある。……あれくらいのことが出来ないと思われていたのか?デウスにはアタシが赤ちゃんに見えてるのか?まあハンター免許は取り立てだけどさ。そりゃ害獣退治なんて危ないから止めるな。アタシもウチのちびが兎狩ろうとしたら止めるもん。

まあ、誤解が解けたみたいだからいいけど。……これが今日一番の収穫かな?

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