第6話 「銃弾で赤字になるってのはおかしくないか?」「『今どきわざわざ害獣に近づく奇特な人』に求めるハードルなんて高いほうがいいでしょう」「それアタシも入ってる?」「当然です」

コントロールルームから出ようとした瞬間。

視界の左端、床が動いた。


「ッマキナさん」


デウスが何かいうより早くアタシは頭を少し引く。

眼の前を銀色の細く鋭いトゲが通過していく。

さっきまでアタシの頭があった所をきっちり狙ってきている。


「逃げて!」

「お前は離れてな」

逃げないよ。そういうレベルの相手じゃない。多分。

視線を左にするとトゲは床から真っ直ぐに生えている。

いや床じゃないな。

伸びたトゲが引っ込むと見る間に盛り上がり、丸い銀色のぶよぶよしたナニカになっていく。丸くてでかい。アタシの枕くらいある。


良くわからんが敵だろう。蹴るか。

ぶよぶよに向かって駆ける。

サイズは大したことない。蹴っ飛ばせば終わるだろ。


近づくアタシにまたぶよぶよからトゲが伸びてくる。

あいも変わらず頭を狙ってくるが、それはもう見た。

呼吸音とか全然しなかったからはじめは驚いたが、こんな速度じゃあ話にならない。

トゲが出る場所が直前に凹むし、身構えていればこんなの当たりっこない。


難なく避けながら進み、次に避けたら足が届く、そう思った瞬間。

ぶよぶよがこちらに跳ねた。トゲではなく。本体が突っ込んでくる。新しい動きだ。

見ると全身が縮こまる様に凹んでいる。こりゃ狙ってないな。当たらないからでたらめにトゲを出す気か。

向かってくるなら好都合。


アタシは思い切り踏み込み、更に距離を詰めて、トゲが出る前にぶん殴ってやった。

硬てえ!


ぶよぶよは壁まで飛んでいったが特に応えた様子は無い。

手応えが悪い。あんなぶよぶよしてそうなのに思ったよりも硬い。スーツしてるのに右手が痺れた。

こりゃちょっとめんどいかな?


「なるほどね。硬さに自信があるわけだ」

甘くみていたことを反省し、拳を固く握り、全身に力を込める。


「ぶっ壊」

「銃、銃使ってください!それは殴ったり蹴ったりは効果薄いです!」


……確かに。こりゃ銃使うべき距離だな。

いい相棒を持った。

デウスに言われて肩に下げていた銃を構える。

銃は難しい武器だ。なにせ撃つまでは手間がかかる。だが、引き金を引けば離れたところにいる相手を一方的に攻撃できるし威力も悪くない。

こういうのを一長一短という。使い所を考える必要があるってことだ。


目標を見て、構えて、引き金を引く。

ぶよぶよが体を凹ませてまたトゲを出そうとしていたが、流石に弾のほうが早い。

電磁力で加速された弾丸がぶよぶよに突き刺さり、蓄えられた電撃を流していく。弾はちゃんと正規品を使ってます。


ジュっと放電時特有の音がする。あっちこっちに跳ねて逃げようとしているが、コントロールルームは大した広さじゃあない。とにかく当て続ける。デウスと訓練しておいて良かったな。この程度の動きじゃ外す気はしない。

効いているんだかどうか分からなかったが、少なくともこれが当たってる間は攻撃してこないみたいだ。


マガジン一個分の弾を使い果たしたころ、ぶよぶよは痙攣し、砂のように崩れた。

あっけないな。


「マキナさん、右手大丈夫ですか?!なんで避けられたんですか?なんで銃持ってるのに最初殴りに行ったんですか?!」

質問は一個ずつにしてくれ。


「右手は平気だよ。避けたのは勘。殴ったのは、……なんかいけそうだったから。訓練が役に立ったよ。弾全部当ってただろ」

「マキナさん、道具は使わなければ意味がないんですよ!というかなんで昨日今日銃もった人間が動体にあんなに当てられるんですか!?ゴモラで特殊な調整受けてます?」

悪かったって。弾全部当てたことを褒めて欲しい。アタシは褒められて伸びるってもっぱらの評判。


「ゴモラは知らんって、んでこいつなに?機獣にしちゃ弱いし、角ないけど害獣でもないのか?」

「これは旧世界のナノマシン機器です。開発・発売は「笑顔を売る」プゲラ社。型番はNM2-VA。通称スライム。自由に形を変えられる上に簡易AI搭載で、簡単な命令で複雑な動作を判断できるので、ご家庭での掃除、ゴミ捨て、虫よけ、赤子の見張り、災害時の救助などなどマルチな活躍が出来る便利グッツ。一家に一台とのふれこみでしたが、どれもそれ専用のものには及ばないのでご家庭にはニーズがなく、もっぱら改造されて暗殺などの物騒な用途で使われていたやつですね」

説明が長い!昔のヒトは便利で物騒なもの作るなあ。でも虫取りやゴミ捨てしてくれるなら便利そうだ。


「警備システムの一環のようですね。僕が基地起こしたせいです。電源を2重化して簡易検査を逃れるよう調整されてました。すいません警戒が甘かったです」

「平気、平気、アタシもお前も無傷だろ?」

途中まで気が付かなかったのはアタシも同じだ。驚いたけど、ハンターに危険はつきもの。むしろ仕事があってよかった。


気を取り直して改めて明かりの付いた廊下に出る。

「うお」

明かりに照らされた地下一階の廊下には、ところどころに傷跡や茶色いシミのようなものがついている。昔の戦闘の跡だろうか。こうやって見ると少し不気味だ。当たりには当時の使われていたのか人型のロボットが立った状態で止まっていた。


「コイツらは動かないのか?」

「電力勾配は逆にしておいたので今は大丈夫です」

「こいつら動かせたら物運ぶのとか便利じゃないか?」

マキナとデウスのロボット軍団。いい考えかもしれない。


「人型はセキュリティ的に決められた範囲外では動かないですね。軍事用ならなおさらです。また、大抵のロボットに今の外界は厳しい環境です」

「お前元気じゃん」

「僕は割と特別なので。……調べましたけどAIは積んでないですね。権限の無いロボット、管理者は……遺伝コード。まあ、でしょうね。このまま動かしても僕らの言うことは聞きませんね。無理やり書き換え出来なくもないですけど、それだと僕が遠隔で動かすのと大差ないですけど、どうします?」

「ん~やめとこう。そこまでほしいわけでもないし」

「はい」

寝てるところを無理やりってのは良くない。

ロボットは足りてるしな。


「なんかあんまりいいもんないな。昔の設備ってこんなもん?勝手に忍び込んで文句言うのも変な話だけどさ」

「まあ、今の我々がやってることは空き巣ですからね」

うむ。まあ、ここの持ち主はとっくに亡くなってるだろうから有効活用ということにしてくれ。


デウスとしばらく地下を漁ってみたがやはりあまりパッとしない。一番の収穫になりそうなのはそこらで止まっているロボットだ。でも、同じようなの都市にもあるしなあ。

さっきのスライム?を警戒してちょくちょくデウスが止まって調査をしているが、アレきり同じようなのは出てこない。


「お、水がでる。これ飲めるかな。チェッカーは……家だな」

「湧き水を自然ろ過するタイプですね。硬度は高いですけど飲めなくは無いです」

水だ硬いのだろうか?触った感じ普通の水だけど。飲めるのはいいことだ。


いくつかの部屋を見て回っても、シャワーやトイレ、ロッカー、多分寝るとこなど、まあ基地ならあるよなという感じだ。なんというか特別感のある部屋がない。

残されたものは旧世界の物なので持って帰れば多少なりとも金にはなりそうだが、世紀の発見!とまで言えるような物は見当たらない。そりゃ金貨や宝石みたいなわかりやすいお宝があるとは思っていなかったが、昔の武器とか貴重な機械とかあっても良くないか?ここ基地だろう?


「戦中に放棄された施設みたいですからね。簡単に持ち出せるようなものは、その時持ち出されてしまったのでしょう。また、破壊工作されてないということはそこまでの施設ではなかったということでもあります」

まあ、そりゃそうか。持ち出せるなら逃げるときに持ち出すよな。アタシでもそうする。


「全体として中途半端な作りですね。機械化はされてますけど、入口もそうでしたがヒトを前提とした箇所が多いです。後期の基地は基本無人ですから軍事基地らしくないですね。用途転換したのかもしれません」

「なんかデータ残ってなかったのか?」

「端末のデータはハードごと持ち出されていました。基地として最低限の機能はありますが、情報はさっぱりですね」

あれま。結局ここは何の施設なんだろうな?


「とりあえず地下二階も見てみようぜ」

「そうしましょう」


アタシたちは階段を降りて地下二階に向かう。

……何もないってことは無いよな?

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