第9話【初仕事?】

 だだっ広い空間に取り残されたヘリオスは軽く伸びをし、置いていたソーサイスの方に目を向けた。土の球はいつの間にかただの山になっている。


「そういえばこいつの名前決めてなかったな。決まった形がないから……“夜霧”がいいかな!」


 そう命名するとヘリオスは軽く素振りをした。しかしある問題があった。どこに納めれば良いのか。アルタイルは腕から、シリウスは背中から出していたが、そういう鞘が体内にあるのだろうか。そう考えながら一か八かで真似をして、適当に腹に突き刺した。

 すると夜霧はスルスルと腹に吸い込まれて行った。再び腹から抜き出す仕草をすると夜霧は出てきた。腕で試すと刀の状態で出てきた。


 ヘリオスは暫く戦い方やカッコイイ抜刀の方法などを妄想していた。だが、ここにずっと居ても仕方がないなと思い、休憩室へ向かおうと扉の前へと向かう。すると、なにやら外で話し声が聞こえるた。

 メインホールから顔を覗かせてみるとそこにはアンタレスと、トカゲのような、いやレプティリアンのような人物が話していたのだ。ヘリオスは思わずえっ、と声を漏らしてしまい二人に気づかれた。


「あ、ヘリオスさん。お怪我はもう大丈夫ですか?」


 アンタレスが軽く手を振っている。しかし、その奥にいる人物は、体勢を一切変えることなく刃物のように鋭い眼差しをヘリオスに向けていた。


「こいつが貴様の言っていた同期か? 弱そうだな」


 威圧的な低い声によって発せられたこの一言は、シリウスに実力差を見せられた後のヘリオスには、かなりキツかった。だが、それを我慢し、引きつった笑顔を浮かべながら自己紹介をすることにした。


「俺はヘリオス。地球から来ました。よろしくお願いします」


「嗚呼。我が名はポルックス。念の為言っておくがウガダイナという種族だ。此処と各星との金融関係を担っている」


 ポルックスの全体的な容姿はレプティリアンと認識できるが、部分的に見ればヘリオス達のような人と似ていた。

 逆に違うところを挙げるとするなら、血走ったような赤い模様が入っている黒い鱗に、鋭い爪、少し大きな口、それぐらいであった。黄色い髪をオールバックにしたり、スーツに似たものを着ていたりと、文化的にも似ているのではと判断できる。


「彼はクリースに用事があるんで、僕らの隊は“彼の部下の”護衛に」


 アンタレスはちらっとポルックスの方を見た。

 少し前、彼らにシリウスから命令があったらしい。それを受け、アンタレスが意気込むと、


「我には必要ない」


 と、言われたらしい。無駄にプライドが高いようだ。


「なのでせっかくなんであなたもご一緒にどうですか?シリウスさんも恐らくOKと言ってくれますよ」


「あぁ、では遠慮なく。俺今やることありませんし」


 ヘリオスは快く承諾した。するとアンタレスは嬉しそうに笑った。


「あと僕にはもうタメ口でいいですよ」


 アンタレスとポルックスの二人は兵を集合させるために通信室の方へと向かった。ヘリオスも勿論兵を持っていないが、ついて行った。道中、ヘリオスはアンタレスに"よしよし連鎖反応"ではなく陽子-陽子連鎖反応だということを伝えると、彼女の赤い髪や瞳が更に赤くなった。


 兵は暫くしてメインホールに集合した。人数は二十数人程だ。兵は様々な人種がいた。腕から翼の生えた種族や三つ目の種族などだ。

 更に兵たちはライフルのような銃といった現代武器の他に、守星のように近接武器を携えている人もいた。しかし、才器とはまた違い、装飾はされていない質素なものであった。


 すると、シリウスが通信室から出てきた。お喋りをしていた兵たちはピタッと会話をやめ、背筋を伸ばし整列した。


「あ、ヘリオス。ごめんごめん、才器の収納の仕方を説明するのを忘れてたね。分かったらまぁいいんだ。それで、一緒に着いてくるなら、まぁ彼らに内容を聞いてくれ」


 シリウスはヘリオスを見るやいなやいつものニコニコとした笑顔で喋って来た。お気に入りなのだろうか。

 シリウスは壁の方へと向き、手のひらで壁を押すと複数個のボタンがでてきた。シリウスがそれの内の一つを押すと、巨大な扉の方向に丸い球体のホログラムが現れた。


「ちなみにあれが僕の故郷のクリースなんですよ」


 アンタレスがヘリオスに言う。ヘリオスはへぇ、と相槌を打った。大陸は地球とは違い南半球に集中していた。その大陸のある一点が赤く点灯する。


「じゃあ、ポルックス。予定通りここでいいね」


 シリウスがそう問うとポルックスは、構わん、とだけ言った。


「よし、じゃあみんな頑張って」


 その一言と共にヘリオスの視界は真っ暗になった。暫く環境音がなかったためヘリオスは不安になっていた。しかしその不安はすぐに解消されることとなる。

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