機械仕掛けの宙を廻りて

ドフォー

プロローグ

第███話【永劫月下の星の元】

「久方ぶりか、将又はたまた初めましてと言うべきか」


 俺に背面を向け、遠くから語り掛けてくる"彼女"の姿は、畏ろしく、そして美しく見えた。


 分解者の立ち去った大地に刺さる、霜と灰に覆われた枯れ草を黙って掻き分ける。


 崩落した鉄筋コンクリートの森林を抜ける、生気を感じぬ風を黙って押し退ける。


 "彼女"は続けて俺に語り掛ける。


「あの衛星の名はセアティス。主星であるこの星と潮汐ロックの関係にある。三日月形の"海"が特徴だ」


 "彼女"は、何かが融解し混じった液体に住む生物に餌をやっているようだ。


 "彼女"は、枯れ草を摘んでは何者かの肉片に変化させ、与えているようだ。


 "彼女"は続けて俺に語り掛ける。


「君の背後にある恒星はアルデバラン。時期に沈み、長い夜が訪れるだろう」


 "彼女"は立ち上がり、俺を見つめる。


 俺は歩みを止め、"彼女"を見つめる。


「……良くぞここまで辿り着いたな。さて、終止符を打とうか。████」


 俺の背後で沈み行く恒星が、俺を冷たく見つめている。


 "彼女"の背後で昇る衛星が、俺を生温く嘲笑っている。


 あぁ、今宵も空が澄んでいる。


 "あの時"と同じだ。

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