第1話 古の遺物
人類が地球を旅立って何百年という時が経過した。
当時は宇宙での暮らしだなんて、夢物語の出来事だったかもしれない。
俺の祖父、その前に当たる血族ならなにかわかるだろうが当時のその体験談というものを俺たちは聞けないのだから。
「おーいユウセイくん」
コロニーの外で、ひたすら隣の惑星を見ていると後ろから声が聞こえてきた。
3頭身サイズの作業用の機体。
それに付く、小さい腕をうまく使いながら手を振ってくる子がこっちに。
「カナミ……」
「作業おわった? ぼーと隣の惑星なんて見てどうしたの?」
「いや、他の星に住むやつらはどんな生活してるんだろうなって、気になってたところ」
のんきに言い訳を言っていると、機体――MA(メタル・アーリー)のコクピットが開き、長髪の少女が出てくる。
「リーダーに怒られても知らないわよ。ほら『サボリ』って言われたくなかったら早く乗った乗った!」
「乗れってこれ1人用じゃ……うわっ!」
強引に1人用の機体に入れられてしまう。
作業用の機体なため、中は非常に狭い。
操縦席のすぐ横に今立たされている状態。今にでも体が機体によって押しつぶされてしまいそうだ。
「毎回思うんだけど、なんでプラルってこんなにコクピット狭いんだよ?」
「そりゃ決まってるでしょ、1人作業用の機体なんだから」
素朴な質問をカナミに質問すると、当然のように答えてくれた。
この今乗っている機体はプラル。
作業用MAであり、これは全宇宙域において、一般流通している大量生産ならび安価な値段で売られている機体だ。
安い分3頭身くらいの大きさしかないが身軽で使いやすいという利点もある。
そのため全宇宙圏域にこの機体は配備されていることが多い。
「怒られたくないなら、帰るわよ。ちゃんと作業はしてたって言ってあげるから」
なんだかんだで俺がサボっていたことは、俺たちがバイトしている職場の上司には黙ってくれるらしい。
● ● ●
俺とカナミはここ、スペース9ヒドラのコロニーに住んでおり、普段は学業に勤しんでいる。
親の勧めがあり、近くのゴミ採取工場に入っている。これで安い賃金をもらいながら生活しているわけだが。
午前は学校、午後は仕事と1日を過ごしているが、なにかと暇なことを感じてはどこか違う場所の景色を見てしまう。
仕事帰りの午後、カナミと俺は近くの飲食店で軽く食事をしながら話す。
「また他の星の写真なんか見てる」
「だってかっこいいじゃん」
「……わからなくもないけど。でもいつかユウセイ君が星の旅に出るんじゃないかと心配よ」
よそ見しながらも心配を訴えかけるカナミ。幼馴染なためか少し心配しているように感じた。
「もしその日がやってきたらお前も連れて行ってやろう」
「え、ほんと? ウソだったら怒るよ」
普段は威張っているような素振りを見せているが、実はなにかと寂しがり屋でもある。
カナミは昔から優しくこうして俺を罵っては誘ってほしいような言い方をしてくるがつくづくかわいいヤツだと思う。
コロニーと言っても、ちゃんと昼夜の入れ替えはされている。
時間経過によって日が昇りやがて沈んでいく。人工的な太陽だが俺たちになんら日常生活に支障はない。
時に今は夕暮れ。
いつもカナミと別れる十字の通りに来ると、彼女は近くにあった腰掛け椅子に座る。
「疲れたのか?」
少し心配そうに声をかけてみたが首を横に振るカナミ。
「ううん、心配いらないよ。でももう少しここにいたいなぁって」
「なんだ、心細いのか?」
「もう、からかわないでよユウセイ君」
上下に足を振っているが、これはカナミのいつも通りのクセというか悪い癖である。
もうすぐで日が沈むというのにのんきなヤツめと思う俺。バイトのワーカー達からあれほど寄り道はするなと言われているのに、なにを根拠に彼女の気持ちをそう拒ませるのか。
「? カナミ」
カナミはなにか思いついたように椅子から立ち上がると俺の前に立った。
「ねえユウセイ君そういえば“アレ”知ってる?」
「アレって?」
「宇宙遺産」
宇宙遺産。
一言で表すのなら宇宙をさまよう往古の宝と言えばいいか。
人々が宇宙での暮らしを始めてからそれから、見知らぬ物がたくさん採掘されたんだとか。
場所によっては貴重な宇宙遺産を展示している施設などもあったりするくらいだ。
たしか俺の記憶じゃあ、10億クレジットもする王冠とかあったな。
そんな、宇宙遺産なわけだがカナミがここで持ち出したってことはもしかするか?
「もちろん知ってる、なんだって宇宙の宝、宇宙の財宝だもんな」
「さっすがユウセイ君」
「それで、それがどうしたんだって言うんだ? まさか自慢話でも始める気か? だったら帰らせて……」
「いやいや、私はそういうキャラじゃないってこと知ってるでしょ! コホン、聞いた話なんだけどさ、ここにちょー大昔の宇宙遺産あるらしいわ」
今、聞き捨てならないことを言ってきた気が……。
宇宙遺産がここにあるだって? そんなばかな。
「まぢで?」
「大マジ、昔ねこのコロニーに巨大な物が落ちてきたでしょ? その残骸らしいんだけど」
「あれか? 50年ちょっとしたぐらいに落ちてきたやつ。当時は隕石だと言われコロニー中は大慌てだったらしいな」
今から約50年前。
突如として、空から巨大な物体が降ってきた。
最初は巨大隕石だと言われ、落ちた場所の山場付近は一時期閉鎖し大騒ぎになっていた。
だが、その後の調べで、明らかに隕石ではない形状だと断定され以降人々から忘れられていったが、その謎の物体は人型の形にも見えたという。
俺たちは教科書ぐらいでしか知ったことがないから詳しくは知らない。
「つい最近ここのゴミ処理場に運ばれてきたって話……ねえ興味ない?」
一緒によかったらついてきてくれない? と目配せをしてくるが……あそこのゴミ処理場の臭い好きじゃないんだよな。
「言っておくが嫌だからな」
「けーちけち!」
「なんとでも言ってろ、怒られるようなことはしたくないからな……でもおまえがそこまで言うんだったら少し付き合ってやるのもいい…………が」
「なによ、今の間は。わかったわ、ちょうど私が機械で発見したんだけど……ほーらこっちこっち」
「おい、待て! そんな急に行くヤツがいるか! こういうのは行く日を事前に決めてだな……」
「ごめん、私そういうのめんどくさくてやってらんないから」
と勝手に手を引かれ、例のゴミ処理場へと連れて行かれ。
ゴミの山々がそびえるゴミ処理場。
ワーカーの営業時間は今日は既に終えており、まわりには誰もいない。
「ちょっとどこまで行くんだよ」
「……足下キツイわねじゃああの子呼ぼうっと ポチ」
カナミがよくわからない呼び出しボタンを押すと、1機のプラルが空から降ってくる。コックピット部分が開きカナミは一足先歩く。
「この赤紫のプラルどうしたんだよ?」
「私が買って改造したの……大丈夫、作業用のと違って中は幅広く設計してあるから安心して」
堂々とウインクしてくるが。
通常のプラルと違って赤紫が特徴的。
その他は変わった物はつけていないが……これで進むってことなのか?
「ここからは足場が窮屈だから足だとキツイ。そこで私のこのプラルちゃんの登場ってわけ。さあユウセイくん乗って行くわよ」
「お宝採掘機ってわけか。……はいはいわかりましたよっと」
ところ狭しと置かれたゴミ場を機体に乗りながら超えていく。
コックピットの中は充実しており、普通のプラルより断然広い。窮屈でもなければ動きにくいこともない。加えてなぜか冷蔵庫や菓子、おまけにゲームなんかもある。
……歩く家かよ。
途中、ゴミが降ったりもしたが。
「おっとあぶないあぶない」
カナミの高い技量によってすんなりと回避。
手つきもとても慣れており、迷いのひとつすら感じさせない操作性。とても同級生とは思えないところがまたおそろしい。
しばらくして。
「着いたわ、降りましょう。足下には気をつけて」
「お、おう」
目的地に到着すると、コックピットから降りて、すぐそばに横倒しになった巨大な布……外套に覆われた物を目撃する。
突起した角張った部分が多々あり、その大きさはプラル以上の大きさだった。
カナミがリモコンでプラルを操作し。
「それじゃ取るよ、3、2、1……」
バサ。
「…………これは」
プラルが布を剥ぎ取るとそこには。
全長18メートルはありそうな、左側は張りぼて状態となった巨大な人型ロボットの姿がそこにあった。
残った装甲の部分をつまびらかに見ると、機体の名前らしきものが書いてあった。
「【M.G.S.T】……なんだこのボロな機体は?」
「えへへ。すごいでしょ、これ探し当てるの大変だったんだよ?」
だが、この時俺はまだ知らなかった。
これがきっかけでこれから起こる、大きな戦いに巻き込まれていくということを。
● ● ●
翌日。
カナミと謎の機体を見に行ったわけだが、いまだに謎な部分が多い。
型式らしき番号があったが、どこから流れ着いたものか検討もつかない。
(M.G.S.T。あれはなんの略……だ?)
たしかなことは、ここヒドラのものではないということ、あんなボロボロな機体どこから落ちてきたのだろう。
「ユウセイくん、どうしたの? 遠くを見るように外を見て」
「い、いやなんでもないよ」
休憩時間。
俺が考え事をしていると、後ろからカナミが声をかけてくる。
カナミもあの機体を見つけてから、数日いろいろ調べていたらしいが結局わからずじまいだったらしい。
カナミはとても機械に詳しいはずだが、そんなコイツでさえ見当がつかないとなれば非常に困難極まるものだろう。
「もしかしてあの機体のこと? 大丈夫、たまたま見つけただけだから……どうせこれから処分される物だからたいして気にならないよ」
「そうなのか? あんなに物色していたのに」
「うちのコロニーじゃあよくああいうのはびこってくるでしょ? またすぐ見つけてみせるよ」
「おまえのそのチャレンジ精神を見習いたいくらいだな」
「へへ」
少々顔が曇っていたカナミに言葉を返してやると、安堵したかのように朗らかな表情を浮かべた。
内心、少しショックだったかもな。
機械好きなコイツの顔をいつも見ていれば、おのずとわかってくるものだし。
『えぇ続きましては……』
教室で流れるテレビの方を見る。
昼の放送……ニュースだ。
『数日前から見知らぬ物体が動く映像を監視カメラがとらえました。これはいったいなんなのでしょうかね』
『隕石か、なにかではないですか? 黒い黒石気になりますね』
画面中央に映し出されているのは、その監視カメラが捉えた物体の映像。
なにかが、機敏な速さで宇宙空間を走行している。物体が速すぎるせいか対象物はかすめてよく視認できない。
隕石かと司会の人は言っているが、はたしてそうか? 隕石にしては明らかに速すぎる気がする。人型のMAなんて見たことないし、ましてやプラルは断じてあり得ない。
「ユウセイくんどう、本当に隕石だと思う?」
「どうだろうな、見えるようで見えないような……よくわからないそんな感覚だよ」
「そっか、帰り気をつけて行かないとね」
昼の時間は次第にすぎていき、授業を受けていたらすでに放課後。
今日は、バイトもなく家へ一直線に帰られる。
とHRを受けていた時。意味深な情報が耳に入ってくる。
「えぇみんな聞いてくれ、コロニー外で噂程度だが不審な動きを感知したようだ。今日はなるべく寄り道をせずそのまま家に帰るように」
教室中からはいくつもの不安な声が飛び交っていた。
それは畏怖。生徒一同の抱く胸騒ぎの収まらない様子がこの目で見て取れた。
そんな気がした。
「……大事にならなければいいがな。あの機体となにか密接な…………いやそれは考えすぎか」
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