第13話

 翌日。

 また人を殺す夢を見た。昨日の夢の続きだ。

 受付の看護師らを殴殺した僕は、ずんずんと待合室に入っていき、そこにいた患者らを殺していった。みんな恐怖に顔を歪めて、死んでいった。

 そして、診察室に入ろうとしたとき、目を覚ました。

「ああ、もう…」

 全身に汗をかいている。頭が、割れるように痛い。

 それでも起き上がって、顔を洗い、ご飯を食べ、制服に着替え、玄関の扉を開けた。

 心無い声の雨に晒されるのはわかっている。でも、僕は普通の人間として生きていたい。

 意地のような感情を抱いたまま、学校へと向かった。

「よお、幸田」

 席に着いて小テストの勉強をしていると、背後で、殺人鬼の名前が呼ばれた。

 振り返ると、そこには、三宅がいた。本名は確か、三宅大河だっただろうか?

 とにかく彼は、悪意を詰め込んだ笑みを浮かべ、僕の肩をバシバシと叩く。

「何やってんだよ」

「勉強」

「マジで?」

 大げさな声。

「殺人鬼の癖に、勉強なんかするのか。まじめだねえ。人殺して金を奪えばいいじゃん。羨ましいよ。就職しなくとも金稼ぐ術を知っているんだからな」

「いや…、殺人鬼でも、幸田宗也でもないんだけど」

 ちらっと周りを見ると、談笑していた者たちが、気が気でないような様子で僕と三宅大河を見てきた。僕の心配、というよりも、三宅大河の心配だろう。

 彼が僕に殺されないか、危惧しているわけだ。

「じゃあさ、オレに勉強教えてくれよ」

「何の教科?」

 トラブルを起こすのも面倒だったので、そう聞いた。

 すると彼は、待ってました…と言わんばかりに、笑って言った。

「生物基礎の、遺伝の範囲」

 殴ってやりたいと思った。

「なあ、良いだろ? 教えてくれよ。だってお前、殺人鬼のクローンじゃん。絶対に詳しいだろ。我が身を持って勉強しているんだからさ」

 三宅大河が僕のことを心底嫌っているのは前から知っていた。「殺人鬼のクローンだかなんだが知らないが、目立つのが気に食わない」と話しているのを聞いたから。いやそもそも、彼の態度を見れば明らかだな。

 こうやって挑発を繰り返して、僕が怒るのを待っているのだろうな。

 だから、彼の挑発には乗らない。

「悪いな、生物はわからないんだ」

「なんだよ、クローンの癖にわからないのか。もっと勉強しろよ」

「人に聞かなくてもわかるくらいにしなよ」

 そう言うと、三宅大河は不意を突かれたような顔をした。そして、返す言葉が見つからなかったのか、「くそ」を吐き捨てて教室を出て行った。

 トラブルを避けることができた一方、僕の気分がさらに悪くなった。

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