第14話
悶々としたまま、昼休みになった。
人のいない場所で昼食を食べようと席と立った時、前方の席に牧野梨花が座っていることに気づく。彼女は「天才」という肩書に恥じず、英語の参考書を読んでいた。
僕の脳裏に、昨日の光景が過る。
胸の奥に隠していた嫌な性格が、ひょこっと顔を出した。
僕は、にやっと笑うと、自殺願望のある牧野梨花に近づいた。
「よお、牧野」
からかってやろうと思ったのだ。
「おい、牧野」
少し大きい声で言っても、こっちを見てくれなかった。
「おい!」
声を荒げる。だけど、やはりこっちを見ない。
「くそ…、昨日のこと、しゃべるぞ…」
そう言った瞬間、俯いていた牧野の頭が、ぴくっ…と動いた。
おっ、やっと反応したか。と思った束の間、前髪の隙間から射貫くような視線が飛んできた。
背筋が寒くなり、半歩下がる。
「…なんだよ」
とにかく、何か喋ってみようと息を吸い込んだ時、後ろの方で女子のひそひそ声が聞こえた。
「ね、ねえ、先生呼んだ方がいいんじゃない?」「そ、そうだよね」「ちょっと、危なくない?」
はっとして振り返る。僕の方を見ていた女子二人が肩を震わせた。そして、一瞬で涙目になると、「ごめんなさい!」と謝って教室から飛び出していった。
「…え?」
呆然としていると、隣の牧野が静かに言った。
「逃げた方がいいんじゃない? 殺人鬼さん?」
「あ? だから僕は…殺人鬼じゃ」
その時だった。
「おい! 幸田ぁっ! 何やっているんだ!」
僕の声を遮って、体育主任の先生が教室に飛び込んできた。
え…? という声を出す暇もなく、筋肉質な腕が伸びてきて、僕の肩を掴んだ。指が肉に食い込んで激痛が走る。反射的に手を払いのけた。
「ちょっと! 何するんだよ!」
「いいから来いっ! このくそ馬鹿があ!」
腕を掴まれる。今度は離さないように、さらに深く指を食い込ませた。
僕はそのまま、生徒指導室に連行されたのだった。
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