10-5「ブルークリスマス」

 小雨のふる夜、街にはクリスマスソングが流れ、イルミネーションがきらめいていた。通りのレンガの床の上で、カップルの足がちらほら踊っている。PGOのジャンパーを着る佑心はあまりの寒さに肩をすくめた。



 「さっむっ……」



 隣には情報局の男性職員がいた。佑心と共に捜査を終えて帰っているところだった。



 「あ……」



 佑心が何か気づいて声を上げた。一角の店から出てくる川副を見かけたのだ。川副は長いコートに身を包み、マフラーと手袋までして重装備。



 「すみません、先帰っててください!」


 「え、新田パージャー⁉」



 佑心は男性職員を置いて川副のもとに駆けだした。男性職員は中途半端に手をのばした。 

 川副が掌を空に向けると、少し雨が降っていた。



 (あめ……)


 「川副!」



 川副が振り返ると、佑心が頭を手で覆いながら走って来ていた。川副はぱっと頬を染めた。



 「すごい偶然!こんなところで何してたんだ?任務?」



 川副は一瞬言葉につまった。



 「あ、う、うん。そう」



 ギリシャ風の彫刻を円状に囲うふちにカップルが多く立ち並んでいる。その中に佑心と川副も並んだ。川副は、軽く降り出した雨を避けるため佑心が貸したジャンパーを羽織っていた。



 「お互いクリスマスにまで仕事なんて、ついてないな?」


 「そ、そうだね!」



 川副は沈黙にもじもじした。



 「そういえば川副って守霊教詳しかったよな?」



 川副は一瞬で青ざめて、びくりとした。



 「……知り合いが詳しいだけだよ」


 「俺、一回PGOの十二階に間違って行っちゃって、守霊教の施設に入りかけたんだけど、なんかそこだけ雰囲気違ってて……あんな事件もあったし、ちょっと調べてみようと思ってるんだけど……」


 「っ、関わっちゃダメ!佑心君には関係ない!」


 「え?」



 急に大声を出した川副に佑心は驚いた。



 「……あれは普通の人には必要ないもの……生きづらくって弱い人が流されちゃうの……」



 川副は眉間にしわを寄せて、そう寂しく呟きながら佑心のジャンパーを脱いだ。それを彫刻のふちに置くと、背を向けて足早にその場を去った。



 「っ!川副!」



 佑心は呆気に取られて立ち尽くすことしかできなかった。その時佑心の携帯に電話がかかってきた。佑心は仕方なく携帯を取って耳に当てた。



 「佑心、今どこにいるの?」


 「恵比寿。調査終わって帰るとこだよ」


 「あっそ。それでさ、なんか年末の忘年会の日程決めたいらしくて――」


 (あ……雪……)



 一条の話は佑心の耳にうっすら聞こえるだけで、目の前で降り始めた雪に聴覚まで奪われた。



 「ちょっと聞いてるのー?」


 「え、ああごめん。雪が……」


 「雪?」


 「今降ってきたんだよ。一条も外出てみろよ」



 一条は寮の共同スペースにいたため外に出てみろというのも正直億劫だったが、仕方なくPGOのジャンパーを引っ掴んだ。

 一条が電話片手に教会の外に出ると、佑心の言う通り確かに雪が降っていた。



 「ほんとだ、ホワイトクリスマスね……寒くなりそうー……」


 「そうだな……吹雪に備えないと……」



 佑心の声がぐっと低くなった。静かに携帯を持つ手を下ろし、雪の降る黒い空を見つめた。

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