10-4「ブルークリスマス」
赤のオフィスで、佑心がテーブルでパソコン作業をしながら背後の様子を伺った。後ろには橘が怖い顔をして立っていた。
「なんでいるんですか?」
「いえ、お気になさらず…」
「気になるから聞いてんだよなー…松本さん、これって俺疑われてるってことでよね?」
新田は背中を丸め、不服そうに聞いた。
「まあ、そうだな。だが、彼は優秀だ!佑心が無実だとすぐに分かってくれるさ」
松本はいつも通り豪快に笑った。
「ですかねー…」
「ん?これは?」
橘は佑心のデスクに貼ってある家族写真を見つけて身を乗り出した。
「ああ、姉と母です。
俺は二人が死んだ日のことを知るためにPGOに入りました。だから、その目的と覚悟を忘れないために」
写真を見つめる佑心の目に曇りはない。橘にはそれが手に取るように分かった。
任務先でも橘は佑心の後についた。十二月の寒さは伊達ではなく、佑心はコート、橘はマフラーとコートを羽織っていた。任務先の町で、佑心がゴーストを見つけた。
「お、いたいた…」
佑心は赤色の光でさっさと焼き尽くした。その後ろで、橘は何やら必死にメモしていた。
「うっ、すごい観察されてる…やりにくいって…」
PGOへの帰路、二人は夕焼けの電車に揺られた。空席にも関わらず、二人で並んで吊り革を握った。佑心はちらちらと橘の方を気にして遂に声をかけた。
「橘さんはなんでPGOにはいったんですか?」
橘は突然の質問を不思議に思った。
「俺の理由は言いましたけど、まだ橘さんのは聞いてないなって……」
橘は車窓に目を向けた。無表情が明るい太陽に照らされた。
「初めは流れです。高校卒業後、一般企業の内定も頂いていましたが、PGOにスカウトされて初めて自分の力を知りました。ですから、新田さんと同じ、この世界に入ったのは遅かった」
「へぇ、正直意外です。松本さんが優秀だと仰っていたので、てっきり一条みたいに昔からゴーストに触れてきたのかと」
佑心は考えるように顎に手をやった。
「君のご家族のことは申し訳なく思います」
「え、申し訳ない?」
佑心は目を丸くした。電車がトンネルに入り、一気に車内も暗くなった。
「世の中は何の規則性もないルーレットのようです。何か違えば、ゴーストに憑かれていたのは私の家族、いや私だったかもしれない」
「それは橘さんのせいじゃない」
佑心は勢いよく首を振った。
「俺の家族は、そう、この世が橘さんのいうようなルーレットなら、運が悪かったんです」
佑心は目を伏せた。橘は前を向いたまま、続けた。
「よく考えるんですよ。『運も実力のうち』というのなら、じゃあ……」
橘は拳を握りしめた。橘の記憶の中では爽やかな青年が橘に笑いかけていた。
「不幸だった人は実力がなかったのか、と。絶対に違うんです……」
ゴゴゴゴゴと電車の音が響き、トンネルを出た。佑心の顔は再び日に照らされた。
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