10-3「ブルークリスマス」
「研修会は以上です」
D級の部の研修会が終わり、心が書類をまとめていると、頭の上に何か重いものが載せられた。
「あ……」
佑心は振り向いて一条を確認した。一条は無表情で心の頭に温かい缶ジュースを置いていた。
「おつかれ。はい、これ」
一条は佑心にも缶ジュースを差し出した。
「あ、ありがと」
佑心は大人しく缶ジュースを受け取った。佑心がカチッとプルタブを上げて飲んでいる横で、一条は日根野にも渡していた。
「はい、晴瑠さんにも。お疲れ様です」
「きゃー、希和大好き!」
一条はさらに百八十度振り返って、少女の机にも缶をコトンと置いた。暗く俯きがちな少女ははっとして顔を上げた。
「アミリアも、お疲れ!」
アミリアはぱっと笑顔になりはにかんだ。
「ありがとう、ございます……」
アミリアはそっと缶を受け取った。佑心はその一条の様子に、街中でぶつかった子供を見つめる一条を重ねていた。
「ちょっと泰河!」
急に一条が大きな声を出し、周りの皆が驚いて一条を見上げた。
「何普通にこの子置いてってる訳?」
出口に既に向かっていた宗崎泰河の背に視線が集まった。紫紺のマッシュヘアーがさらりと揺れ、徐々にこちらを振り返った。
「ちゃんと一緒に連れてってあげな」
一条はいつになく真剣な表情で言い放った。
「……そうだな。アミリア、行くぞ」
泰河はマスクで表情が読めないが、一条をひと睨みして踵を返した。アミリアはぎゅっと缶を握って椅子から飛び降り、仕方なしに泰河の後を追った。一条はまだ厳しく泰河の背を追っていた。
*―*―*―*
重厚な部屋の扉がノックされた。
「失礼します、真壁です」
「ん」
真壁副長官が入室した。相変わらず、四十代とは思えないスタイルの良さを誇っている。
「長官、こちらを」
副長官がタブレットを差し出した。
「行方不明のゴーストがさらに増加しています。パージ能力で殺されたわけでもない、一般人のゴーストが消息を絶っているということはやはり…」
「ああ、何者かが意図的にパージもしくはゴーストを回収しているということ……しかし、何のために?特殊執行部から報告はあったか?」
「それぞれのオフィス、寮の捜査を終えたようですが、明らかに疑わしい人物はいない、と。ただ、橘パージャーは赤の派閥の新田佑心という新人について少々気になるようで」
真壁はタブレットをスライドし、佑心のプロフィールを見せた。
「新人…か…」
長官のメガネが怪しく光った。
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