6-5「胸懐」

 オフィスの扉が開くと、一条が戻ってきた。



 「お疲れ様でーす」


 「おう、帰って来たな希和。聞いたぞ!たった一日で連続殺人犯をとっ捕まえるとは!」


 「私は大したことできませんでしたよ。なんだか、佑心が凄い活躍だったみたいです」


 「うんうん、それも聞いてるぞ!佑心も心もよくやったな!」



 松本は至極満足そうに頷いた。



 「ありがとうございます」



 一条より前に戻っていた佑心と心の声が重なった。その時、扉が数回ノックされた。



 「杵淵だ。いいかい?」



 そう聞こえた瞬間、オフィスの全員がぱっと立ち上がり右手で敬礼した。佑心は少し遅れて立ち上がった際に、少しよろめいた。向かいの一条はそれを見て小さく噴き出した。



 「杵淵長官、問題ありません!」



 松本が大声で答えると、杵淵と呼ばれていた男が入室した。背も高く体格のいい中年の男は松本のデスクの前まで進んだ。部屋は緊張に包まれていた。



 「すまんな、忙しいときに」


 「いいえ!ご用件は?」


 「ああ、実は――」



 二人はコソコソと話しだし、段々との両者の相好が険しくなった。



 「またですか……ええ……」



 佑心たちには松本の小さな相槌しか聞こえてこなかった。杵淵はすぐに踵を返して出口に向かったが、佑心のそばで急に立ち止まった。



 「君かね、連続殺人犯を挙げたのは?」


 「は、はい!」



 佑心は背筋を伸ばして運動部だと分かる返事をした。



 「……名前は?」


 「あ、新田佑心です!」


 「ふむ。これからもよろしく」


 「はいっ!」



 杵淵は去り際に心の肩にも手を置いたが、心はガチガチに緊張して固まっていた。杵淵がオフィスを出ていくと、皆ため息をついて緊張の糸が急に切れた。心も大きく肩を一気に落とし、息を吐いた。しかし、佑心はずっと扉の向こうを見つめていた。



 (なんで俺に……)



成果を上げたとはいえ、なぜ心や一条ではなく自分だったのか、その疑問にしばらく逡巡した。

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