6-4「胸懐」

 執行部赤の派閥のオフィスで、佑心のデスクの横に立って心が何か指導していた。



 「ここはこれでいいのか?」


 「うん、ばっちり!」


 「できたー?」



 一条はオフィスの出口に自分の報告書を持って首を長くしていた。



 「もうほとんど完成だよ」



 佑心は目を細めて一枚の紙と向き合った。



 「ってか俺、てっきり任務の報告書って自分で書かなきゃダメだと思ってたよ」


 「まあ、本当はそうなんだけど、実質事務局の人に任せっきりだよね。パージャーは人手不足だし」



 心は困り顔で言った。



 「何せ執行局代理事務部、なんてものがあるくらいだしね」


 「僕らのせいでその事務部は相当忙しそうだけどね」



 佑心はまだまだPGOについては知らないなと妙に感動した。

*─*─*─*


 佑心、心、一条は報告書の提出のために執行局代理事務部へと向かった。



 「あの連続殺人犯って、どうなったんだ?あんな危険なやつ、まさか警察に引き渡さないだろうし」


 「大方、ゾレト行きでしょうね」


 「ゾレ、どこって?」



 佑心の反応に、心がくすっと笑った。



 「ゾレトラウカ、略してゾレト。ここの最下層にある収容所だよ」



 それを聞いて佑心が一歩引いた。



 「げっ!この地下にあんなやつがゴロゴロいるのかよ」


 「大丈夫よ。警備は厳重だし、限られた人しか入れないから」


 「そうそう。って言っても、僕はまだ行ったことないけど」



 心はヘラヘラ笑った。

 その三人の様子を少し遠くで見ている姿があった。川副は佑心が心と笑いあう姿を無意識に目で追っていた。



 「……川副さん?川副さん?」


 「……え?」



 川副の隣を歩いていた青の派閥のC級パージャー、舛中司の声で意識が引き戻された。舛中は三十歳で、七三分けに黒縁眼鏡の風体はどこかのビジネスマンのようだった。



 「何か気になることでも?」


 「あ、いえ……」



 といいつつ、川副はまだ佑心の背中を追っていた。舛中も川副の視線の先に何があるかは分かっていた。



 「では、急ぎましょう。後が詰まっているのですから」


 「は、はい……」



 川副は気持ちをそこに残しながら、舛中に続いた。


*─*─*─*


 「執行部一条希和、報告書を提出に――」



 一条が戸を開けた瞬間、のべつ幕無しに並ぶデスクから覗く顔全てに睨まれた。佑心は並び立つ睨みに顔を引きつらせた。



 「な、なに……」


 「あの、ここに置いておきますので、よろしくお願いします」



 一条は扉の前の長机に三人分の報告書を置くと、すぐに部屋を出た。



 「ふー、何回やっても嫌だわ……」



 一条はため息をつきながら額の汗を拭った。佑心は不思議そうな顔をしているのを見かねて心が口を開いた。



 「言ったでしょ、執行局代理事務部は僕らのせいで大忙しなんだよ」


 「な、なるほど……」



 佑心は苦笑いした。

 赤のオフィスに戻る途中で、一条だけが立ち止まった。



 「じゃあ、私、ちょっと用を済ませてから戻るから。先行ってて」


 「あ、うん……用事って、何だろうね」


 「さあ」



 残された二人は首を傾げた。

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