6‐3「胸懐」
数日後、一条は保健部で改めて治療を受けていた。保健部の窓から見える木々は風に揺れて、太陽は出ているが涼しい日だった。癒波叶は目を閉じて、仄かに緑の能力を宿した右手を一条にかざした。一条は無表情にそれを見ていた。
「うん。問題ないですわ。でも、この前の新田さんといい、皆さん無茶しすぎですわよ?」
「すみません……」
叶は一条に優しく笑いかけた。背後で佑心と心が見守っていると、後ろからしわがれた大声が聞こえてきた。
「不思議なこたありゃせんよ!昔から赤は血の気が多くて困るわい!」
「あら、お母さま」
叶は振り返って老婆に笑いかけた。佑心はその老婆をまじまじと見つめていると、突然その老婆と目が合いギクリとした。老婆はどんどん近づいてきて佑心を上から下まで舐めるように見回した。
「お母さま」と呼ばれたこの老婆は癒波望、癒波叶の実の母親でそして生活局局長である。
「颯太!こいつを見ておやり!多少しぼんどるわ!」
「ラジャー!」
奥から別の声が聞こえ、望と入れ違いで短髪ウルフの青年が駆けてきた。青年、西村颯太もずいっと佑心に近づいた。
「自分、名前は?」
「あ、新田佑心です」
西村は佑心の身体の至る所に緑のパージ能力を宿した手を、叶がやっていたのと同じようにかざしながらペラペラ話した。
「ふむふむ、なるほどな。赤のパージャー、と。ちょいと補完しとくさかい、動かんとってな」
西村が佑心の背中に手を当てると、緑の光が優しく佑心に入っていった。胸のあたりがほんのり温かく、そこから元気になっていくのを感じた。
「あの、あなたは?」
「ん?西村颯太や、緑のパージャー兼生活局職員!よろしゅうな!ほい、終わったで」
「あ、ありがとうございます」
「ほな、またな。今からすぐ任務があってな!」
急いで去ろうとする西村の背中に心が無邪気な笑顔で問いかけた。
「あ、もしかして、日根野さんとの任務ですか?」
その瞬間、西村の顔がぽっと赤色に染まった。くるっと振り返るとぎこちなく頭をかいた。
「ま、ま、まあ、そんなとこや!あははー……」
(なるほどな……)
佑心はもの知り顔で口角を上げた。西村はごにょごにょ誤魔化して部屋を出ていったが、心は何も分かっておらず首を傾げていた。
「わざわざ退院の日に来てくれてありがとね。でも、そろそろ行こう」
診察椅子から立ち上がった一条は二人に笑いかけた。
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