5-4「絵空事」
佑心を先頭に、三人は男の気配を追った。
(もう少し……このあたりに……)
暗い夜の路地を突き進み、佑心は気配が強くなるのを感じた。角で立ち止まり、心と川副を手で制した。その先を慎重に覗き込むと佑心は目を凝らした。
「舜、ここから二つ目の電柱の前。アスファルトに血痕が……」
「……見えた!」
心が拳銃を下に構えつつ建物の陰から顔を出した。標的の場所の目星をつけると、すかさずトリガーに力を入れた。すると、弾丸の軌道上で灰色の光が炸裂し、あの男の姿が露になった。
「防がれた!」
心が叫んだ。男はまだ心に撃たれた肩を庇っていたが、無事な左手で弾丸を防いでいた。
「なんだ?俺が見えるのか……」
動揺を隠さない男に追い打ちをかけるように、佑心と心は正面から突進した。心はすぐに物陰に隠れ、佑心は真っ向からパージ能力を浴びせた。男はしばらく呻いたが、佑心の光線は軽い反撃を受けて途切れてしまった。そのすきを狙って心は物陰から拳銃を構えたが、男は素早く心の拳銃を吹き飛ばした。矢継ぎ早に繰り出される攻撃が心自身をも襲った。地上の戦闘とは別に、川副は上空からいくつも攻撃を仕掛け、男を壁際に追いやることに成功した。
「佑心君!」
佑心は川副と目配せして、一気に光束量を増やしたパージ能力を当てた。しかし、閃光弾のような何かが男の目の前で炸裂した。通常のパージ能力より明るいそれに佑心も川副も一瞬にして視界を奪われた。上空から見ている川副は眩惑が治まるなり、あることに気づいた。
(……うそ、犯人がいない!)
焦って辺りを見回すと、佑心の背後に低く回り込んだ男がかすかに見えた。
「佑心!」
佑心はその声に気づいて後ろを振り返った。迫る攻撃は捉えているが、このままではまともに攻撃を受けるだろう。上空にいた川副は間一髪のところで、佑心の背中に迫る男の間に入った。佑心の背は守られたが、男は川副を軽々と蹴り飛ばしてしまった。川副は圧倒的に力負けしていた。それを承知でも、佑心の助けに入るには迷う暇はなかった。すぐに男は目の前の佑心にパージ能力を浴びせた。光は数秒で途切れたかが、目の前にもう男はいなかった。
(また消えた!)
男を見失って一秒とせず、佑心は後ろから誰かに足をかけられて派手にこけた。また男の奇襲だ。仰向けに倒れた佑心の目の前にパージ能力を宿した腕が着々と迫って来るのが見えた。佑心は絶体絶命の状況に呼吸を忘れた。
(っやられる!)
すると、佑心の身体がふわっと浮いた。さきほどまで佑心がいた場所には男の腕が地面に深くめり込んでいた。佑心が後ろを振り向くと、頭から血を流した川副が息を切らして佑心の肩を掴んでいた。
「川副、助かった!」
佑心はすぐ立ち上がって、男に物理的攻撃を仕掛けるが男はまた急に姿を消した。神経を集中させて、周囲に気配を探す。佑心は「ここか!」と斜め後ろにパージ能力を放ったが、照準がずれて方向も定まらなかった。佑心が気配を察知していても、攻撃が当たるかは別の問題だった。川副も空から観察し、男の隙を探した。
(うっ、また見えなくなった!透過されると、全然分からない!攻撃できない!)
また佑心は敵に向かっていこうとしたが、川副が隣に降り立って彼を制止した。
「佑心君、どうする?透過されると、太刀打ちできないよ」
(どうしたらいい……?どうしたらこいつを……)
突然佑心の目が何かを見据えた。何か信じられないものを見たというように。
「あっ!」
佑心の片方の口角が上がった。 佑心が何やら口元を寄せると、川副もすぐに耳を貸した。
「えっ⁉」
聞き終えた川副は顔全体で驚きを示した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます