5-3「絵空事」
「おい、君たち!こんな時間に何やってるんだ!関係者以外は立ち入り禁止だと書いてあっただろう!」
原が声のした方を見ると、教師と思われる男性がグラウンドに出てきていた。
「まずい!早くゴーストから遠ざけないと!」
ゴーストは元のサイズに戻ってふらふらしていたが、急に方向を変えて教師の方にピリピリと火花を散らし始めた。
「おい、君たち聞いているのか!」
足を止めないどころか加速する教師。一条は光の速さで彼の前方へと駆けだした。同時にゴーストは教師の方に突進し、間に合った一条に体当たりする形となった。質量はないはずだが、異常に重さを感じて、一条は力負けする可能性すら考えた。
「奏海さん!今のうちにゴーストの捕縛を!」
「分かってる!」
「おい……何なんだこれ……」
教師は一条の後ろで萎縮し、初めて見るものに怯えていた。人は魂の知覚を強めた時、つまり危機一髪というような時に、いつもは見ることのできないゴーストを目にすることがある。教師は眼前で身体を張る一条に、自身の危機を感じ取っていた。一条が抑えている間に、原は鞭のように細くてしなやかな光を創造した。原の鞭は宙で大きくうねった後、しゅるしゅるとゴーストに向かって伸長した。そして、その一本ががっちりとゴーストに巻き付いた。
「一条!その人連れて、そこから離れて!」
一条はゴーストから一気に手を離し、教師の腰を抱えてグラウンドに全身でスライディングした。一方、原はもう一本の鞭を今度は縦に巻き付けた。ゴーストが大きく青い灯を噴いて暴れまわるが、原は鞭を引っ張って何とか動きを封じた。
「っ一条、今よ!」
一条は休む間もなく体を起こして、ゴーストに両手を向けた。集中のために閉じた目を全開にして的を捉えた。
(光束量、最大!これで、一気にパージする!)
一条の掌から勢いよく光が飛び出し、辺りを桃色に染め上げた。ゴーストは奇妙な叫び声をあげて、形を変化させた。
(いける!このままいけば!)
一条が光を浴びせ続けると、ゴーストは叫び声を大きくしてその図体を徐々に縮小させた。同時に辺りを照らす光も弱まっていった。完全に青白い光はここから消えた。
「はあ、はあ、はあ……」
息を弾ませながら、一条は放出していたパージ能力を弱めた。原もゴーストを拘束していた二本の鞭を消失させてゴーストがさっきまでいた場所を見つめた。
「何だ、今の……」
教師は少し離れた場所で相変わらず目を瞬かせていた。
「やった……」
原が茫然としていると、どさりと膝から崩れたのが一条が視界の端に映った。
「っ、一条!」
原はすぐに倒れた一条に駆け寄り、彼女を抱き起こした。ほのかに青いパージ能力を宿した右手を一条の胸に優しく当てた。次に耳を胸に当ててしばらく耳を澄ました。心音がしかと聞こえた。
「……パージ能力の使い過ぎ、か……全く世話の焼ける同期……それよりあいつら、大丈夫かしら……」
原は後輩らを想って空の彼方を見やった。
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